『カーリング今はもう』
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「お姉ちゃん! 山坂くん独身だって言ってたよね!」
「どうしたの夏希?」
キッチンで夕飯の支度をする姉に夏希は罵声をあびせた。
「独身だっていってたじゃん。まだ結婚してないって。でも山坂くん子供いるじゃん。完全に既婚者じゃん!」
「え、そうなの?」
姉は鍋をかき混ぜながら驚きの表情を見せた。かき混ぜるたびにビーフシチューの香りがキッチン内に広がっていく。
「そうなのじゃねーよ。アタシびっくりしたよ。10歳の長男を筆頭に4人も子供がいるじゃん」
「へー山坂くんって子供いたんだね。知らなかった。あの漁船に乗っている人でしょ?」
「漁船?」
「あの人でしょ。高校生のときカーリング場のトイレでタバコ吸って怒られた」
「それ山岡じゃん!」
「えっ違うの?」
「お姉ちゃんが言ってるのは山岡のことじゃん。アタシは協会の役員をやってる山坂くんのことを言ってるの。いたでしょ。カーリングがうまくて女子がみんな憧れてた」
となりの部屋から杏が顔をのぞかせた。
「お母さんも夏希ちゃんもうるさいよ。テレビが聞こえない」
テレビではちょうどカーリングを放送していた。杏は恨めしそうな顔を見せながらすぐに顔を引っ込めた。
「そう言えばいたね。あれが山坂くんなの?」
「そう、あの人!」
「漁船でホタテとってるあのクセ毛の人のことだと思ってた。あの人も協会の役員だよね?」
「そうだけど、それ山・岡。あたしが言ってるのは山・坂くんね。岡じゃなくて坂ね。山岡みたいな天パホタテ野郎のことなんか知らねーよ。いちいち姉ちゃんに聞いたりするかよ! 岡と坂を間違えるなよ! 姉ちゃんのせいでこんなことになってるんだからね! アタシがどんな目に合ってるかわからないだろ!」
夏希は言葉をはき出すとキッチンを飛び出し、2階へのぼた。
部屋の電気をつけると壁にかけた服が目に飛び込んできた。今日着ていったお出かけ用の服だ。
夏希はそれをつかむと脇腹のところから真っ二つに引き裂いた。かなり高かった服だがぼろ布みたいに無残にやぶれてしまった。刈られた雑草のように糸が並び、裂け目の生地はギザギザにちぎれていた。
窓をあけると外は風が吹きすさみ、雪が真横に降っていた。ボロ布を勢いよく投げ捨てると風に乗って一瞬でどこかへさらわれていった。
あっという間に消えてなくなったけど、風になびく音だけは暗闇の中からしばらくバタバタと聞こえていた。
毎日練習をつづけたがどれだけ練習しても上手くならなかった。
とくに山坂のことがあってからは気持ちも塞ぎがちになり、練習に身が入らない。それは杏にも伝染してしまったようで、ここ何日か杏はミスが多かった。
このまま大会に出ても勝てずに恥をさらすだけのように思えてきた。ならばもうこんなことやめて東京に帰ってしまおうか。そうしたら湖まで毎日走らなくてよくなるし、毎日カーリング場に来る必要もなくなる。
いっそのことこのままカーリング自体がこの世からどこかへ消え失せてくれたらどれだけスッキリすることか。
苛立ちからつい杏と口論になってしまうこともあった。先日もカーリング場内のみんなが見てる前で口論となり、その様子を遠巻きにずっと見られていた。
小学3年生のくせに杏は物怖じしないところがあった。東京に遊びに来ていたときはもっと能天気で朗らかな子という印象だった。しかし1ヶ月近く一緒に練習してきて、気性に激しい部分があることがわかってきた。
思えば姉にもそういう面があった。その血を引き継いだのだろう。
今日はスイープの練習をする予定だった。ストーンを投げたあとふたりでアイスを掃くのだ。そうやってブラシでこすると床の氷が摩擦で溶けてストーンがすべりやすくなる。それによってちょっとだけ距離を伸ばせる。大会で優勝するためには絶対必要となる練習だ。
「ヤップ!」
本番を想定していちおう掛け声をかけながら練習をした。
杏にストーンを投げさせて、それを夏希がブラシでスイープする。杏も投げたあとストーンを追いかけてきてスイープに加わる。
「ヤップ。しっかり掃いて」
杏の投げたストーンは少し弱かった。このままではハウスまで届かない。夏希はブラシで床をこすってなんとか距離を伸ばそうとした。
スイープが勝負の明暗を分けることがカーリングではよくあった。世界の強豪との戦いの中でもそういう場面には何度も遭遇した。
夏希はなんとかストーンをハウスまで届かせようと力を込めてアイスをこすった。
しかし杏は途中でスイープを勝手にやめてしまった。
「杏なにやってんだよ。最後までやれよ!」
床を掃きながら夏希は怒鳴った。
「もういいよ。短いし。どうせ届かないよ」
「いいからやれって!」
「無駄だって」
「やれって!」
「無駄だって!」
「やれ!」
「無駄!」
場内が静まりかえった。各レーンでたくさんの人たちが練習していたが、夏希と杏の大声にみんな手をとめていた。
「もうわたしカーリングやめる。だって全然うまくならないもん」
杏はブラシを壁に向かって投げつけ、出口の方へ立ち去ろうとした。
「待て杏!」
夏希は追いかけて杏をつかまえた。
「離してよ!」
「ちょっと上手くいかないぐらいで泣き言をいうな。戻れ。練習再開!」
「もうやりたくない。練習なんかしても無駄!」
杏は下からくぐるようにして夏希の手を逃れた。バランスを崩してしまった夏希はそのままアイスの上に転倒した。
そのすきに杏は逃げていった。
「カーリングなんて全然おもしろくないよ」
杏はそう言い残してカーリング場をあとにした。
夏希は腕をさすりながら立ちあがった。打ちどころが悪かったのか右腕がズキズキと痛む。また骨折してしまったのではないかと心配になるような痛みだった。
でも左腕でなくてよかった。今は左手だけが頼りだ。右手はもういらない。
夏希はリンクからあがり、壁のところに置いてあった水の入ったペットボトルを勢いよく蹴った。ペットボトルのそばにあったシューズカバーとグローブも一緒にリンクのほうへ飛んでいき氷の上に散らばった。
ここでゲームセットか。
お菓子でも買ってあげたら戻ってきてくれるだろうか。あるいはマクドナルドのハンバーガーの方が効果てきめんか。この町には売ってないけど。
しかしそんなものではダメなように思えた。足りない。足りなすぎる。
もうどうにもならない。大会は来週だ。
夏希はイスに腰をおろした。帰ったら荷物をまとめて、今晩のうちに東京へ発とうか。東京に戻ったら何かアルバイトでも探すしかない。近所のパチンコ屋あたりで働こうか。
目を閉じると300万円という大金が闇の彼方へと遠ざかる景色が浮かんだ。
しかし300万円とは別に、もうひとつ何か他のものも遠ざかっていくのがわかった。夏希にはそれが何なのかはっきりとは見えなかった。何が遠ざかっていこうとしているのだろう。
気づくのが遅すぎたのかもう遠くてよく見えなくなっていた。色も形もわからない。
夏希は目を開けた。上に星が輝いているような気がして目を向かたら、ただのライトだった。低い天井からライトがまともに光を差していた。
それでも星の彼方に何かが消えゆこうとしているように思え、我慢して光に目を向けていた。でも目が痛くなるだけだった。
夏希はライトを避け顔を下に向けた。
この喪失感はいったいなんだろう。なぜ胸が痛いのだろう。
カーリング場には今日もたくさんの小学生たちが練習に来ていて、その声が耳に届いていた。夏希は転んで強打した右腕をさすりながら場内を見渡した。
目の前のリンクに男の子がひとりいることがわかった。圭吾だ。リンクに散らばったものを身をかがめて拾っている。
夏希は立ちあがった。圭吾は先ほど夏希が蹴飛ばしたペットボトルやシューズカバーを拾い集めていた。
夏希は圭吾のもとへ向かった。圭吾も拾ったものを手にこっちに向かってきた。
夏希の目の前まで来ると圭吾は集めたものを無言で差し出した。
「ありがとう」
夏希は礼をいった。圭吾は謙遜するように首を振った。
山坂の少年時代を思い出させるような表情だった。目もとが山坂に似ている。瞳の光り方。まつ毛のツヤと長さ。二重まぶたの薄い線。
「お父さんは今日来てるの?」
「いいえ父は今日営業で出かけています」
「お母さんは?」
「妹たちをつれて病院に」
「具合でも悪いの?」
「ただの定期検診です。心配ありません」
夏希は圭吾が拾ってくれたものを受け取ると壁のところに戻った。手元に戻ってきたペットボトルのキャップを開けて水を一口飲んだ。喉が熱を持っていたのか水がなんだか冷たく感じられた。
夏希は壁にもたれながらカーリング場全体をながめた。圭吾も夏希についてきていて、すぐ隣に立っていた。
山坂に似たその横顔をもう一度見ようと顔を向けたとき、圭吾と目が合った。まるで山坂に見つめられているような気持ちになった。
「母が言ってました。前原さんは悪い人じゃないって」
圭吾がいった。夏希には意味がよくわらなかった。
「悪い人じゃないから話しかけてみなさいって。人を寄せ付けないオーラを持っている子だけど、話すと恐くないよって。せっかく伝説的なカーリング選手と話せるチャンスなんだから、恐がらず話しかけてみろって」
「知恵美がそんなこと言ってたの?」
圭吾はうなずいた。
「悠斗くんたちが思い切ってサインをもらいにいったけど叩かれたって話していて、それを聞いてボクもなかなか勇気がわかなくて。このあいだ母に紹介してもらってやっと話すことが出来たけど、でもその後は・・・」
何日か前のあの憎たらしい悪ガキどもの顔が夏希の頭に浮かんだ。
「母は前原さんのライバルだったんですよね?」
「一応そんなふうにみんなは見ていたみたいだね」
「母は相当すごかったんですね。前原さんのライバルになるぐらいだから」
「すごいなんてもんじゃないよ。知恵美は天才少女だったから。小学生の頃なんてアタシより断然うまくて」
「母のほうが前原さんより上だったんですか?」
ふたりともカーリングを同じぐらいの時期に始めたはずなのだが、実力は全然違った。知恵美はすぐに子供たちの中で一番うまい子になった。夏希はどちらかというと下手な部類だった。平均以下。その他大勢のひとりという感じだった。
もうカーリングなんてやめると言ってこのカーリング場を飛び出したことだって何回かあった。
しかし夏希は中学にあがってから伸びた。はじめて知恵美に勝ったのは中学二年のときだった。
「そのあと母と前原さんはライバル関係になったんですね」
「まあすぐという感じではなかったけど、中三ぐらいからはライバル関係みたいに思われてたな」
「母は高校時代ほとんど前原さんに勝てなかったと話していました。周りからはふたりはライバルみたいに言われるけど、本当は全然相手にならなかったって」
「そうだね。高校生のころのアタシは無敵だったから。高校3年間でほとんど負けてないもん」
「すごいですね。母が今回も警戒しているのがわかります」
「なにを警戒しているの?」
「今度の大会でどのペアが優勝しそうか母に聞いたら、前原さんのところが優勝するって言っていました」
夏希は苦笑した。左手でしか投げられないのを知っているくせに。つい先日もストーンが明後日の方向にすべっていく様を見ていたくせに。
「一昨年ぼくがカーリングをはじめたときに母に尋ねたんですよ。カーリングってどんなスポーツなのかって。そしたら母が言っていました。カーリングとは敵と味方がハウスめがけて交互にストーンを投げあって、最後は前原夏希が勝つスポーツだって」
「それリネカーじゃん」
夏希は水を飲もうとしていたが笑ってしまって吹き出しそうになった。
「リネカー?」
「イギリスのサッカー選手にリネカーという人がいたんだよ。その人が言ったんだ。サッカーは11人対11人で戦って最後はドイツが勝つスポーツだって。それだけ当時のドイツ代表は強かったんだよ」
「高校生のときの前原さんも鬼のように強かったんでしょうね。母にはそれがトラウマになっているのかな」
「強かったね鬼のように。全国高校選手権もさらっと3連覇したし。アタシ高校の3年間で2回しか負けてないもん。でもその2回とも君のお母さんに負けたんだよ」
「母に」
知恵美はライバルだったのだろうか。夏希は考えてみた。しかしどうも違う気がした。自分にとってはもっと何か特別な存在に思えた。
他の子とは違って知恵美だけはハウスの中心近くでピタリと止めるような美しいショットを決めることができた。子供のころから夏希は何度もそれを見せられた。そして自分もアレをやってみたいと思った。
もし八木知恵美という子がこの町に存在していなかったら、夏希はカーリングを始めてはいなかったかもしれない。続けてもいなかったかもしれない。
毎日湖まで走ることもなかっただろう。知恵美がそうしていると知ったから夏希もそれを真似したのだ。毎日湖まで走れば知恵美みたいな美しいショットを投げられるようになるのではと思った。
夏希の人生に一番影響を与えた人物は八木知恵美という少女だ。それは間違いなかった。
1階へ降りていくと姉と杏がもう晩ごはんを食べはじめていた。
夏希は杏の隣の席に座り、並べられた豚の生姜焼きや大根の入った味噌汁をながめた。白い湯気が立っていてまさにいま出来たばかりであることを知らせていた。姉や杏の箸の音や食器をテーブルに置く音が、なんだかいつもよりずいぶん耳にとどいた。
「今日は業者の人がいっぱい来て大変だった。新商品を見に来たんだけど6人もやって来るから対応に追われて」
姉が口を開いた。姉はそのまま仕事の愚痴をあれこれ並べたてた。姉が仕事の愚痴を言うのは珍しいことだった。夏希は聞いたことがなかった。
姉がずっと喋るので食器の音などが気にならなくなった。夏希は杏と並んで晩ごはんを食べながら黙って姉の話を聞いていた。
晩ごはんのあとはテレビでカーリング中継を見た。ちょうど日本対ロシアをやっていたので杏と並んで見ていた。
とくに会話はなかったけどそのまま並んで最後まで見ていた。
いつもは杏が学校から帰ってくるのを待ってからふたりでカーリング場に来ていた。でも今日はひとりだ。
夏希はひとりでシューズに履き替え、ひとりで準備運動をして、ひとりで練習をはじめた。
1時間ほど体を動かしたあとはリンクからあがってひと休みした。体には1時間分の熱がこもり暑かった。イスに腰掛け上着を脱ぐと、風が汗を洗い飛ばしてくれるようで心地よかった。
今日もカーリング場にはたくさんの人が来ていた。来週の大会に向けてみんな練習に余念がない。ストーンのぶつかり合う音が場内にいくつも響きわたっていた。
水を飲んだあと5分ぐらいは何もせずくつろいでいた。そのあとぼんやりと向こう側の通路を眺めていると、よく見知った小さな女の子の姿を見つけた。ブラシを片手に通路をゆっくりと歩いてゆく。
杏だ。
杏は壁のわきにブラシを立てかけるとシューズを調整して、少し体を動かして軽い準備運動をはじめた。
それが済むと杏はリンクにあがりストーンを投げはじめた。
杏の投げたストーンが奥からこちら側へ向かってすべってくる。
杏は感触を確かめるようにどんどんストーンを投げていった。投げたストーンがどんどん流れて来る。
夏希はブラシを握ってリンクに入った。
すべってくるストーンの動きに合わせて氷の床をブラシでこする。それによってストーンはより力強くハウスに向かってすべっていく。
杏がストーンを投げる。夏希はそれをスイープする。ハウスまで届きそうにないときは強くこすり、ちゃんとまっすぐ来てるときはゆっくりとスイープした。
杏は最後の1投を投げた。あきらかに弱い感じだ。ハウスの手前で止まりそうだ。
杏にもそれがわかったのかストーンを投げたあとすぐに追いかけてきた。
「ヤップ!」
夏希は掛け声をかけて全力でスイープした。杏はストーンのところまで来ると、夏希の声に合わせるように床を全力で掃きはじめた。
それでもストーンは弱い。どれだけ力を込めてスイープしてもハウスまでは届かないだろう。
「ヤップヤップ最後まで」
夏希がそう言うと杏はうなずき全力で氷を掃いた。
「夏希ちゃん」
「え?」
「ヤップって何語?」
「英語だよ。イエスをもっとカッコよくした言い方」
大事なスイープの最中にこの子はなにを言い出すのか。でもなんだかおかしくて夏希は笑ってしまった。
「ヤップはかっこいい言い方なの?」
「そう」
ブラシで床をこすりながら夏希は答えた。
「ええ~ダサいよ。ヤップのプがダサい。おならプーみたいじゃん」
「じゃあ杏だけ別の言い方を考えなよ」
言われて杏は考える素振りを見せた。ストーンはまだ滑っていく。スイープをしながら杏はあれこれ考えてるようだった。
「チョップとかどうかな」
杏は名案でも思いついたように声を強めた。
「プがついてるじゃん。おならプーみたい」
「チョップならいいんだよ。なんかカッコいい」
「じゃあアタシはキックにしようかな」
「いいね夏希ちゃん。それでいこうよ。みんなはヤップって言っててダサいけど、ワタシらだけチョップとキックでカッコいい」
「うん。ウチだけヤップ、チョップ、キックでいこう」
そうこう言っているうちにいつの間にかストーンは止まってしまった。やはりハウスのずいぶん手前だ。
そのストーンを蹴って奥に片付け、前に投げた分もぜんぶ足で奥へやった。
「今回は参加チームが多いから2日に分けて大会を開くんだって。わたしたち2日目に登場するらしいよ」
「そうなの? なんで杏がそんなこと知ってるの?」
「入り口のところにトーナメント表が貼ってあったよ。チーム前原っていう名前がトーナメント表の一番ハジに載ってた」
「トーナメントの組み合わせ決まったの?」
「入り口にあったよ」
入り口のほうを見るとたしかに人が集まっていた。夏希はあわててそちらへ向かった。
入り口の掲示板の前に人がたくさんいた。背伸びしながら掲示板をのぞくとトーナメント表が見えた。
チーム前原はシード扱いになっていた。1回戦は免除で2回戦から登場だ。初日の土曜日は1回戦と2回戦が行われ、3回戦から決勝までは日曜日に行うようだ。しかし夏希のチームの初戦だけは特別扱いなのか日曜日に回されていた。
シード扱いになっているのはチーム前原と前回の優勝ペアの2チームだけだった。この前回優勝チームとは山が反対なので決勝までは当たらない。
夏希は知恵美のペアがどこに入っているのかを探した。掲示板の前にはまだ人がたくさんいてトーナメント表がよく見えない。前回優勝チームよりも知恵美チームのほうが夏希にとっては恐かった。
人が少し減りはじめた。トーナメント表もよく見えるようになった。知恵美チームの名前も確認できた。1回戦は6年生とその父親のペアと対戦するようだ。
それに勝って2回戦にあがると、次に当たるのは前原ペアのようだ。
夏希は見間違いではないかともう一度トーナメント表をよく見てみた。指でもたどってみた。しかし間違いなかった。自分たちの最初の対戦相手は知恵美ペアだ。
6年生親子の方が勝ち上がってきたらそちらと対戦することにはなるけど、たぶん勝ち上がっては来ないだろう。いや、残念ではあるがほぼ勝ち上がっては来れないだろう。
このトーナメント表の中では知恵美ペアが最強だ。毎日カーリング場に来ていろんな人の練習の様子を見てきたから夏希にはよくわかっていた。
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