面白いストーリーの作り方

物語のテーマの作り方 → 決めるものではなく見つけるもの

目次

テーマは決めるものではありません。見つけるものです。

どんな裏ストーリーを仕込めばテーマが出現してくるかを、作りながら見つけましょう。主人公がどんな間違いをして、戦いの中でそれがどんなふうに正されれば人生が本当の姿を現してくるか。

ストーリーを作る前にテーマをガッチリ決めようとすると失敗します。決めてはいけません。天才たちはテーマを事前に決めたりはしていません。作ったあとに見つけています。

このへんの感覚がわかればテーマはもっと上手に作れるようになります。

このページではまずはテーマの基本的な性質を先に軽く紹介しておきます。これを確認しておかないとテーマ作りは始まりません。見つける方法はそのあとで解説していきます。

ないものは出てこない

いいテーマを見つけられるかどうかは、書くべきテーマを自分が持っているかどうかでほぼ決まります。

凡人と天才の違いがあらわれる部分です。天才は特別な感受性を持っています。凡人とは違う目で世の中を見ています。その特殊なアンテナがテーマをキャッチします。

だから天才は書くべきテーマを持っています。凡人は持っていません。

ないものは出てきません。だから当然書けません。

ブレードランナー 映画

たとえば『ブレードランナー』には神への怒りというテーマが含まれています。4年の寿命しか与えられていないアンドロイドたちが人間に対して反乱を起こしたというストーリーです。ハンターであるハリソンフォードは街に紛れ込んでいるアンドロイドを見つけ出して退治していきます。

アンドロイドに寿命が4年しか与えられていないように、人間も神様から短い寿命を与えられてしまっています。この怒りがテーマになっています。

こうしたテーマは無宗教の人には書けません。出てきません。そもそも神への怒りという概念を持っていませんからね。

ないものは出てきません。

ベッドの靴カバーと同じです。靴を履いたままベッドに寝転がるという発想がない日本人は、ベッドの靴カバーという商品を思いつきません。

ベッドの靴カバー ベッドスロー

「ベッドに寝転んだとき靴の汚れがつかないような商品を作って販売しよう。きっと売れるぞ!」そう思いつくのは外国人だけ。

これが持つ者と持たざる者の違いです。

テーマの難しいところです。書くべきテーマを自分が持っているかどうかの勝負になってきます。

だから人生で苦労してきた人とか、普段からいろいろ考えている人のほうが強いです。若い人よりも人生経験を積んだ大人のほうが強いです。

努力では挽回しにくい部分なので持って生まれた才能次第、感受性次第なところが多分にあります。

いきなりストーリーを作ってしまう

自分が書くべきテーマを持っているかどうかでほぼ決まります。

その大前提を踏まえたうえで作り方のコツを紹介していきます。知っていると成果が多少は違ってきます。

テーマは決めるものではなく見つけるものです。

「今度賞に応募しよう。そのために1作書かねば。まずテーマを決めよう」

こんな感じで作ってしまいがちですが、テーマを決めずにいきなり作りはじめたほうが成果は出ます。

歴代の名作を見てみても、先にテーマを決めてそれからストーリーを考えたという感じではありません。

先ほど例として出てきた『ブレードランナー』にしても、「テーマは神への怒りだ。神様め人間に寿命なんか設定しやがって。許せないな。そうだ閃いた。そういうアンドロイドの話を書こう」

このような感じで話を思いつくかというと、違うような気がします。

おそらく逆でしょう。まずアンドロイドが反乱するだけの単純なストーリーが浮かんで、でも物足りないのであれこれ考えているうちに4年の寿命というアイデアが出てきたのではないでしょうか。このアイデアが出てきたことで「神への怒り」というテーマがやっと見つかったのでしょう。

日本人作家の遠藤周作もキリスト教徒なので、神への怒りというテーマで『沈黙』という小説を書いています。神への失望と表現したほうが近いかもしれません。

沈黙 遠藤周作の小説

『沈黙』はキリシタンが弾圧されていた江戸初期の話です。ポルトガルの宣教師がこっそり日本に忍び込んで、隠れキリシタンたちの力になろうとします。

おそらく最初はそうしたキリシタン弾圧の単純な話だったのだと思います。幕府のお役人に弾圧されても頑張るキリシタンと宣教師、みたいな。

しかし書いているうちに遠藤周作は怒りがこみ上げて来たのでしょう。キリシタンたちが幕府に捕まって拷問される。無残に殺されていく。なのになぜ神は助けてくれないのだと。

書いているうちに神への怒りというテーマが自然と出てきた感じに思えます。

無宗教の人はいくらキリシタン弾圧の小説を書いても神への怒りという感情はわいてきません。遠藤周作は信仰を持っていたからこそテーマが出てきました。

『沈黙』は神の出現を待ち望むというすごい話になっています。でも出てこないんですね。神はキリシタンたちを見殺しにします。

主人公は神への怒りを爆発させます。「今こそ姿をあらわして信徒たちを救うべきだ。あの幕府の役人どもに鉄槌をくだすべきだ。今やらなくていつやるのだー!!!」

書いているうちに遠藤周作の胸の内に怒りがどんどん湧いてきたのでしょう。それと並行するようにテーマを構成するネタもどんどん生まれていったのではないでしょうか。

名作がどのように作られたのかを検証すると、だいたいこれに近い順番ではないかと思えます。まずストーリーを作り、あとからテーマに気づくと。

自分が書くべき何かを持っていれば自然と出てきます。自分の書きたいものを書けば何かが潜んでいるはずなのです。あとはそれを見つけ出してあげるだけ。

有名な作家や脚本家のインタビュー記事を読むと、たいていいきなりストーリーを作っています。テーマなどは考えずいきなり書きはじめたと言っている人が多いです。

テーマを最初に決めたという話はあまり聞きません。

だから自分でストーリーを作るときもまず書いてみることです。才能のある人なら書いている途中でテーマに気づきます。有名作家と同じように。

凡人はあっさりとテーマに気づく才能など持ち合わせていないので、必死に見つけるしかありません。とりあえず書いてしまって、そのあとで何か潜んでいないか探しましょう。

もうこれしかありません。

いきなり小説本文を書くのは大変なので、まずプロットだけ作ってしまいます。プロットとはようするに長めのあらすじですね。小説を書くための設計図みたいなものです。

1000文字でも2000文字でもいいので、作中で起きる重要な出来事を全部書き出してみます。

プロット作りがなかなか進まないようなら、映画のCMみたいなものを作ってみましょう。CMは観客を映画館に呼び込まないといけないので、次から次へと魅力的なシーンや思わせぶりなシーンがダイジェストで並びます。こうしたCMみたいなものを考えていると自分の書きたいものが見えてきます。

CMではなくその作品の紹介文みたいなものでもいいです。雑誌などに最新映画の紹介コーナーがあったりしますよね。あれを作ってみます。「愛し合ってはいけないふたりが追い詰められてついには・・・」みたいな紹介文をあれこれ書いていると、書きたいものが見えてきます。

こうして大まかなプロットが出来てきたら、何かテーマが潜んでないか探しまわります。

反乱したアンドロイドをハンターがただ退治していくだけの話かもしれません。でも神への怒りというテーマを見つけたら作品が一気に覚醒しはじめます。4年の寿命という決定的なアイデアもそこから生まれてきます。

さらには命や死といったものをアンドロイドを通して描き、人間とは何かという問いに潜む見落としを描けたら『ブレードランナー』のような深さにまで到達できます。

「自分はなぜアンドロイドが反乱する話を書きたいのだろう?」

こうした自分自身への疑問の投げかけが一番の基本になります。

「なぜこんな話を書こうと思ったのか。アンドロイドが撃ち殺される姿になぜだか切なさを感じる。なぜなのか。アンドロイドなんてただの機械なのに。なぜ自分はハンターの方を悪者みたいに感じているのか」

こんなふうにあれこれ考えてみましょう。

とくにポイントとなるのは裏ストーリーです。間違いが正される話にちゃんとなっているかチェックしてください。なっていないようなら、主人公がどんな間違いをすればテーマが生まれるかを考えます。

なぜ主人公が承の前半で間違ったことをするのかというと、テーマを見落としているからです。人生の何か大事なものが見えていないから間違ったことをします。

主人公が何を見落としているのかを考えることはテーマを見つける助けになります。

承の前半部分だけ書き直す機会もあるので、プロットを作るときは起承転結に4分割して書いたほうが後々使い勝手が良いです。200文字×4みたいなきっちりとした配分でなくてもいいので、分割して書いておきましょう。

主人公の心にある秘めたる想いもテーマに直結します。秘めたる想いがまだないなら、まずはそこから考えてみましょう。秘めたる想いについては「主人公の作り方のページ」で詳しく解説しています。この基本講座を最初から順番に読んでいる人は慌てなくてもあとで読むことになります。

もしプロットをチェックしたり書き直したりしてもまだテーマが見つからない場合は、もうプロットはあきらめて小説本文を書きはじめます。仕方がありません。

プロットと違って小説を実際に書くことは気持ちの入り方や勢いが全然違います。それがテーマを見つけることにつながります。

書いている最中に気づくかもしれません。最後まで書き終えてもまだテーマが見つけられないかもしれません。

プロットを検討したときと同じように、書き終えたものをいろんな角度から眺めてみましょう。ここでやっとテーマが見つかったなんてこともよくある話。

そうなったら苦労がすべて報われます。もう一度プロットからやり直しにはなりますが、設定からキャラクターから全部を再検討してみましょう。

そうやって改良を加えたうえでもう一度小説を全文書いていくことになります。

面倒ですが仕方がありません。実際に小説本文を書かないと気づかない自分が悪いんです。

しかしいいテーマを見つけることが出来たらそんな面倒は吹き飛びます。いいテーマを思いつくということは、推理小説作家がすごいトリックを思いつくのと同じ価値を持っています。同じぐらい思いつくのがむずかしいけど、同じぐらい観客を面白がらせることができます。

見つけられるかどうかの勝負です。

そして根本的には、自分が書くべきテーマを持っているかどうかです。

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テーマについての解説はこれで終了です。

次のページからは主人公の作り方を解説します。

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