ラストシーンは戦いのあとどうなったかを見せるパートです。短くワンエピソードで終わらせましょう。
登場人物たちの反応を見せればいいだけなので単純です。
戦いはすでに決着しています。だから観客はラストシーンをある程度予想できます。観客のこの予想を上回ることが出来るといい終わり方になります。
戦いの勝敗はクライマックスでついてます。ラストシーンではその勝敗に対する登場人物たちの反応を見せます。
たとえばドラクエなどのゲームにしても、ラスボスを倒したあとお城に戻ってみんなの歓迎を受けますよね。平和が戻ったことを喜ぶみんな。勇者を称える王様やお姫様。
ラスボスを倒した瞬間にストーリーは決着しています。でもそこでいきなりエンドロールが流れだしたら物足りない気持ちになってしまいます。「ラスボスをやっと倒した。やったぜー」と喜んでいたら急にENDの文字が出てきてゲーム終了。そんなふうに急に終わられたら「ちょっと待て」と誰もが思ってしまいます。
サッカーの日本代表がワールドカップの出場を決めた瞬間なども同じです。アジア最終予選に勝ってワールドカップ出場が決まった。やったー。と思っていたら「では結果がもう出たのでここで放送を終了します」みたいに中継が終了。
そんなふうに急に終わられたら「ちょっと待て」とみんな激怒します。
歓喜する選手や監督たちの姿を見たいじゃないですか。インタビューだって聞きたいのに。
1993年のドーハの悲劇のような悲しい結末の場合でも同じです。芝の上に座り込む選手たちをちゃんと見たい。泣いている姿なども見たい。
戦いが終わったあとの勝者や敗者の姿をみんな見たいと思っています。
主人公は秘めたる想いを胸に戦い抜きました。ならばその勝敗が何をもたらしたのか、物語にどんな意味があったのかを見せないといけません。
これがラストシーンの役割です。
まわりの反応や主人公の反応をちゃんと見せて終わりましょう。
ラスボスを倒してすぐエンディングではなく、ちゃんと人々の反応を見せて終わりましょう。そうしないと観客は納得してくれません。
結末を端的に見せる必要があります。だらだら時間をかけてはいけません。基本的にストーリーはもう終わっているのだから。
戦いが終わったあとどうなったかをワンエピソードだけで見せましょう。キレが重要です。
ワールドカップ出場を決めて喜びを爆発させる選手を見せればいいだけです。
試合後にマッサージしてもらっている様子などはいりません。家に帰ってからTVゲームで遊んでいる様子なども必要ありません。翌日家族と買い物にいく様子なども不要。
無駄なものをあれこれ入れてしまうとストーリー全体の価値自体をダメにしてしまいます。
ロッキーは試合のあとリング上から「エイドリア~ン」と叫ぶだけです。エイドリアンはリング上のロッキーのもとへ走るだけ。それだけでいいんです。翌日部屋でふたりで語り合っている様子などはいりません。
戦いはクライマックスで終了しています。勝ち負けがもうついているので、ラストシーンは観客にも容易に予想できます。
ラスボスを倒してお城に凱旋すればみんが歓喜に湧くだろう。
ワールドカップ出場を決めたら選手や監督は大はしゃぎだろう。
ドーハの悲劇なら、選手たちはピッチに倒れ込んでしばらく立てないだろう。
ラストシーンは始まる前から予想が可能です。観客はそのシーンを予想して待ち構えている感じです。
この観客の予想を上回ると、いいラストシーンになります。そのポイントとなるのはやはりテーマです。
いいラストシーンにするためにはテーマを入れてダメ押しするのが基本です。
たとえば『ロッキー』では、戦い抜いた充実感のある表情だけ見せて終わってもいいのですが、「エイドリア~ン」と叫ぶ演出を加えています。
エイドリアンはささやかな人生をあらわしています。チャンピオンに勝ってアメリカンドリームを実現することが目的ではなく、自分の人生を取り戻すために戦った。それを印象づける効果を持っています。最後エイドリアンの名前を叫ぶことで、ロッキーが何のために戦い何を手に入れたのかを上手く表現しています。
こういうシーンを作ると観客の予想を上回るいい終わらせ方になります。
テーマを絡めたシーンは意外と観客には予想しにくいものです。だからテーマに関係するシーンを用意しましょう。
このときポイントとなるのは裏ストーリーです。テーマは裏ストーリーが担っていて、観客は意外とこちらには気づきません。オモテストーリー関連のラストシーンばかり予想しがちです。
だからこそロッキーの「エイドリア~ン」も予想しにくいラストシーンになっています。テーマを表すようなラストシーンは観客には予想しにくく、意外といいシーンになります。
ラストシーンの代表格ともいえる『シェーン』も裏ストーリーの流れを活かしています。
去っていくシェーンの背中に向かって「シェーン、カムバーック!」と少年が叫ぶ有名な終わり方です。
このシーンがビシッと決まるのは別れが避けられないものだからです。孤独なガンマンと少年が心を通わせるけど、シェーンはガンマンの宿命ゆえやっぱり去っていくという話です。
ガンマンは家庭など持てないし、そもそも平和な暮らしに落ち着けるような人間はガンマンになどなれません。そんな悲しい男が村に立ち寄って、みんなを苦しめている悪者を退治して、去っていく。そういうストーリーです。
オモテストーリーは悪者退治の話ですが、裏ストーリーではガンマンの宿命が描かれています。
『シェーン』という映画が成功した最大の要因は、ガンマンの宿命を少年の視点から描いたこと。村の大人たちはみんな薄々気づいていますが、少年はまだ子供なのでこの宿命に気づきません。気づかないまま憧れの気持ちだけを強めていく展開が切なさを生んでいます。
『シェーン』という映画は銃撃シーンがほとんどない西部劇として有名です。シェーンはクライマックスの対決までは銃をほとんど抜きません。本当に凄腕のガンマンなのかどうかをずっと隠しています。だからこそ少年には正体がわからず、憧れや期待感だけを高めていってしまいます。凄腕のガンマンであって欲しい。自分もシェーンみたいになりたいと。
しかしもし少年が望むような凄腕ガンマンなら、シェーンは普通の暮らしなどできません。今は村に滞在しているけれど、いずれは去っていくことを意味します。
つまり二択です。シェーンが村の人たちと同じような普通の人間なら、村にずっと残ってくれます。凄腕ガンマンならいずれ村を出ていきます。
少年はこのことに気づいていません。凄腕ガンマンで、さらに村にもずっといて欲しいと思っています。現実がわかっていないんです。子供だから。
最後になって少年はやっとシェーンの宿命を悟ります。生きることに気づく瞬間ともいえます。少年は甘くない現実を目の当たりにします。
この気づくという部分が観客の予想を上回っています。「シェーンはどうせ最後去っていくんだろうな」と観客も予想できますが、少年がシェーンの抱える事情に気づくのは予想外です。
ガンマンの宿命に気づいた少年が、去っていくシェーンを見送る。この形までは観客も予想できません。
ガンマンの宿命に気づいた少年は、もうシェーンが去ることは止められないとわかっています。それでもたまらず「シェーン、カムバーック!」と叫んでしまうからこそ別れのシーンが胸に響きます。
映画のラストシーンとしてこちらも有名な『第三の男』の場合も、裏ストーリーのダメ押し、テーマのダメ押しで締められます。
ラストシーンで主人公は想いを寄せている女性を道端でずっと待ち続けます。その様子をカメラはずっと長回しで撮りつづけます。道の先から女性が歩いて来ます。主人公はどんどん近づいて来る彼女を黙って待ち続けます。
「女性はどんな態度を見せるのだろう。主人公を許してくれるのだろうか。それとも激しく詰め寄るのか。ふたりはどんな会話を交わすのか」
果たしてふたりの仲はうまくいくのかどうか。こうした興味で観客はラストまでしっかり観てくれます。
そしてそんな予想を超えて主人公はもっとひどいフラれ方をします。女性は主人公に目もくれず無視して去っていきます。待ち続ける主人公を長回しでずっと見せていただけにその哀愁はただものではありません。
主人公はオモテストーリーの解決に尽力したので本当は幸せな結末を迎えないといけません。しかし裏ストーリーでは苦渋の決断をしました。平和を守るために女性を裏切った形に。
その結果がこのハードボイルドなラストシーンにつながっていて、観客には予想がつかないものとなっています。
『ゴッドファーザー』もラストシーンはダメ押し系です。抗争事件自体はクライマックスですでに終わっています。しかしラストにもう1回テーマを見せて終わります。
マフィアを継ぎたくないと言っていた三男坊こそが、長男や次男をさしおいて本物のドンになっていく映画です。ラストシーンでは本物のドンになってしまった主人公の姿をワンエピソードでしっかりと見せて終わります。
運命の波に飲み込まれていった男の悲しさや恐ろしさが鮮やかに描かれています。
このシーンが観客に予想しにくいのは、主人公が予想をはるかに超えるほどすでにもう本物のドンになってしまっているからです。もう昔の彼ではない姿を見せて映画は終わります。
本物のドンになってしまったことはクライマックスでもうわかっています。でもまさかここまでとは。そういう予想を上回るラストシーンです。
昔話の『浦島太郎』もラストシーンにダメ押しを仕込んでいます。
亀なんて助けてはいけなかった。龍宮城など行ってはいけなかった。長居などしてはいけなかった。
何度も帰るチャンスはあったけど戻ってこれなかった浦島太郎。しかしまさかのチャンスが。乙姫様が地上に帰してくれるという。
もうダメかと思ったけどなんとか地上に戻ってこれた浦島太郎。しかしその手にはもらってはいけない玉手箱が。この玉手箱に何が仕掛けられているのかが観客には予想できません。
結局浦島太郎は開けてはいけない箱を開けてしまい、敗北が確定します。戻ってこれたと思ったけどやっぱりダメでした。
戻ってこれなかった男の話として、最後のこの玉手箱がダメ押しとしてよく効いています。
欲しいのはこういう終わり方です。
こうした演出のもととなっているのはテーマです。ラストシーンでもう一度テーマをダメ押しして締めましょう。
テーマをダメ押しすることで観客の予想を上回るいいラストシーンに仕上がります。コツは裏ストーリーの幕切れとして相応しいシーンを用意すること。
裏ストーリーの結末というのは観客には予想しにくいものです。
オモテストーリーの結末に対しての反応を描くのではなく、裏ストーリーの結末に対しての登場人物たちの反応を見せてラストを締めるようにしましょう。
ストーリーの結末についての解説はこれで終了です。
次のページでは面白いストーリーが作れないときの修正ポイントについて解説します。
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