面白いストーリーの作り方

2枚合わせにすればストーリーは面白くなる

目次

面白いストーリーというのは実は2枚合わせになっています。

オモテのストーリーと裏のストーリー

この両方を考えるようにしましょう。2枚合わせにすることはストーリー設定を考えるうえで最大のポイントとなります。ストーリーがうまく作れないのは片方だけを必死に考えているからです。

ストーリーは2枚合わせになっている

ストーリーは2枚合わせの構造になっています。

表向きのストーリーと、その裏に潜んでいるテーマをめぐるストーリー。

事件の解決を目指すのがオモテストーリーです。それに対して裏のストーリーは主人公の心の問題の解決を目指します。

このオモテと裏の両方が合わさってはじめて面白いストーリーになります。

たとえば『ロッキー』なら、表向きのストーリーはチャンピオンと試合をして勝とうとする話です。そのためにロッキーは練習に励みます。

こうした表面的なストーリーにばかり目がいきますが、実は裏にはもうひとつストーリーが潜んでいます。

『ロッキー』の裏のストーリーは、あきらめてしまった人生を取り戻す話です。

この裏のストーリーが『ロッキー』という映画のテーマを担っています。

みじめな暮らしを送る3流ボクサーのロッキー。

なんとかしたいという気持ちはあるものの、もう30歳なのでさすがに自分の人生などあきらめている。本当ならこのままふがいない人生で終わるはずだった。

しかしそんなロッキーにタイトルマッチ挑戦という千載一遇のチャンスが。

これをきっかけにして、止まっていた彼の時間が動きはじめる。

この裏とオモテのコンビネーションこそが『ロッキー』の名作たるゆえんです。どちらか片方だけの話だったら退屈な映画にしかなりません。

もしチャンピオンと対戦するというオモテストーリーだけしかなかったら、ただ頑張って強い敵と戦うだけの浅い話になってしまいます。

逆に人生をあきらめている男の日常を静かに描くだけのストーリーなら、まったく面白みのない退屈日常映画に。

裏とオモテの両方が効いているからこそ『ロッキー』は不滅の名作として後世に名を残すことになりました。

2枚合わせの構造になっていないと、どんなアイデアを思いついても無駄に終わってしまいます。

オモテのストーリーは事件をめぐる話です。対して裏ストーリーは主人公の秘めたる想いの話です。その戦いにどんな意味があるのか。どのような意味がこもっているのか。裏ストーリーはこれを生み出します。

そしてこの意味こそがその作品のテーマとなります。

オモテのストーリーだけ作っても面白くはならない

ストーリーは2枚合わせです。だからオモテのストーリーだけをどれだけ必死に作っても面白くはなりません。

やってしまいがちな落とし穴なので注意してください。2枚合わせという基本を知らないせいでオモテのストーリーだけを必死に作っている人がたくさんいます。オモテだけ必死に作っても面白くはならないのに。

「不倫の話を作ってみたけど面白くならない。もっと派手にせねば。家が火事になることにしよう。飼っている犬に咬まれる悲劇も加えよう。実はふたりは血を分けた兄妹だったことにしょう」

こんな感じでとにかく必死にオモテのストーリーだけを飾っていきます。

でもいつまでたっても面白くはなりません。裏のストーリーがないからです。テーマがないから面白くなりません。

名作映画と呼ばれているものの中には、表面的なストーリーだけ見たら意外とたいしたことがない作品がたくさんあります。そうした映画が名作として後世に残っているのは、ちゃんと裏のストーリーが存在しているからです。

オモテのストーリーだけ必死に作っても物語は絶対に面白くはなりません。

たとえば味噌汁にしても、味噌とダシが合わさってあの美味しい味が生まれます。ダシを使わず味噌だけ入れても味噌汁の味には絶対になりません。

昔テレビで見たのですが、料理を一度もやったことない男が味噌汁を作ろうとして味噌ばかり足していました。ダシが必要だということを知らないんですね。

当然ながら味気ない味噌味の変なお湯にしかなりません。「おかしいな。母親が作る味噌汁と見た目は同じなのに」男は不思議に思いながら味噌をとにかくどんどん追加していきました。でも味はどんどん変になっていくだけ。

ストーリー作りもこれと同じです。味噌汁にダシが必要なように、物語には裏ストーリーが必要です。

この基本を知らないばっかりに、オモテストーリーだけをどんどん追加していくという失敗をやってしまいます。

必要なのは味噌を追加することではありません。ダシを効かせることです。

お手本のような裏オモテ『八百万の死にざま』

「2枚合わせにすることが大事なのはわかった。でも実際のところどんな効果が出るというのだ。実感がどうもわかない」学び始めたばかりの人はそういう疑問を持つと思います。

2枚合わせの効き方を実感するにはやはり具体例にふれるのが一番。これから3つほど例をあげて解説していきます。

まずはローレンスブロックの小説『八百万の死にざま』

この小説は裏とオモテのコンビネーションのお手本といえます。

八百万の死にざま 小説 ローレンスブロック

探偵の主人公は事件の調査を依頼されます。そしてこのオモテストーリーの裏には実はもうひとつストーリーがちゃんとあって、禁酒をやぶらないよう耐える様子が描かれていきます。

酒を断つというこの裏ストーリーがかなり効いています。主人公がお酒を飲んでしまうのは世の中に嫌気がさしているからです。自分の撃った流れ弾で少女を死なせてしまったというつらい過去が主人公にはあり、それ以来お酒に救いを求めるようになってしまいました。つまり断酒は絶望に打ち勝つという意味合いを持っています。お酒に溺れたら絶望に飲み込まれてしまったということ。

『八百万の死にざま』はそんな主人公の再生の物語になっています。

主人公は事件を調査する過程でいろいろと嫌な目にも合い、アル中に戻ってしまいそうになります。でもなんとか耐えます。知り合った女性との関係に希望を見い出し踏ん張ったりします。

こうした姿が感動的だし、ストーリーを面白くしています。

もし主人公がお酒に救いなんか全然求めていない心身ともに健康的な男だったとしたらどうでしょうか。そんな主人公が殺人事件をただ調査するだけの話です。全然つまらない小説ですよね。

オモテの話だけではストーリーは面白くなりません。反対に、アル中の話だけでもダメ。主人公が必死に禁酒するだけの話も面白くはなりません。主人公がウジウジしているだけの退屈ヒューマンドラマで終わってしまいます。

たとえば退屈な映画や小説の例をひとつ出すと、世の中に嫌気がさした主人公が自殺しようかと悩みながら日常を過ごす話ってありますよね。過去の嫌なことを振り返りながらウジウジするだけ。これではダメです。面白くなりません。ちゃんと殺人事件の調査というもうひとつのストーリーとの2枚合わせにしないとテーマは機能してくれません。

主人公がウジウジ悩んでいるだけでは対決も葛藤も変化もない無意味な話になります。

『八百万の死にざま』にしてもこうした葛藤や変化は、事件を追うオモテストーリーによって生まれます。オモテストーリーのおかげで状況がどんどん変わっていくから、それにともなって主人公の持つ絶望感も変化します。

裏ストーリーだけではこうした状況の変化がありません。もしオモテストーリーがなかったら、主人公のウジウジした内面を観客に見せるだけの退屈な話になってしまいます。

事件というオモテのストーリーを描くからこそ、裏ストーリーではしっかりと内面を描けます。『八百万の死にざま』はまさにこの基本そのままの作りになっていて、お酒の誘惑に耐えながら事件の真相解明に挑む面白いストーリーになっています。

ドラゴン退治というオモテストーリーの効果

裏とオモテのコンビネーションが大事。裏ストーリーだけでは状況が動きません。

たとえば化物みたいな醜い顔をした主人公がいたとします。村のみんなと仲良くなりたいけど恐ろしい容姿のせいで彼は孤独です。村外れにひとりで住んでいます。そんな彼が必死に村の人と交流をはかろうとするだけの話ではダメです。面白いストーリーにはなりません。 テーマが機能しません。

ドラゴン退治みたいなオモテのストーリーを加えましょう。2枚合わせにすることではじめて裏ストーリーも機能しはじめます。

化物みたいな醜い顔をした孤独な主人公。

恐ろしい顔をしているため強そうと思われたのか、村人からドラゴン退治に加わるよう協力を要請される。

討伐パーティーに加わってみたものの、同行する村人のうち数人は彼を良く思っていないようだ。

こういう感じで表向きは村人たちとドラゴンを退治するストーリーです。でもその裏ではみんなと仲良くなりたいという裏ストーリーが展開されていきます。

途中でピンチの仲間を救ったり、みんなを守るためにオトリとしてドラゴンの注意を引き寄せたりします。こんなことを主人公が必死にやるのは、彼が性格の良い善良な人だからではありません。みんなに認められたいからです。道徳のためとかではなく、秘めたる想いがあるから必死に頑張るのです。

この「友達が欲しい」という想いを強く出せたらストーリーは成功します。孤独な今の暮らしなどを見せ、秘めたる想いを効果的に伝えていきましょう。

醜い顔の主人公がただウジウジしているだけのストーリーを作っても絶対に面白くはなりません。ドラゴン退治のようなオモテストーリーを加えて2枚合わせにしましょう。裏のストーリーを描くためにドラゴン退治を利用するという感じになります。

地味な不倫の話も2枚合わせで面白くなる

最後に紹介する作品例は不倫の話です。非常に地味な話です。しかし裏ストーリーを入れると急に機能しはじめます。

40代の女性主人公は夫や子供が旅行で留守のときに、ひとりの男性と出会って夢中になる。

主人公と同年代のフリーカメラマンで、全国を旅している。この町に滞在するのはほんの4日間。

彼は夫とは全然違った。気の利かない夫が持っていないようなものを全部持っている。主人公は4日間で100年分ほどの恋をする。まるで待ち望んだ運命の相手と出会ったような気分だ。

しかし夫や子供たちが帰ってくるときが迫ってきた。彼は一緒に来てくれと言う。君と離れたくないと。

でも主人公は断る。彼は町を去っていく。

夫たちが旅行から帰って来ていつもの日常がふたたび戻ってくる。

たったこれだけの話です。

全然面白くありません。ただの不倫アバンチュール話です。あるいは安っぽい道徳話です。「一緒に来て欲しい」と誘われたけど断っています。不倫しちゃったけどやっぱりイケナイことだわ、家庭を大切にしなきゃねと。

そんな安っぽいストーリーにも思えます。しかし裏ストーリーを足すと全然違ってきます。

主人公に秘めたる想いを付けてみましょう。「こんな人生で本当にいいのか」みたいな想いを。

もう40代の女性です。子供も立派に育ちました。夫との会話も今さらありません。まあ普通の関係です。住んでる家もそこそこ立派です。何不自由ない暮らし。

でもこれでいいのか。子供や夫のために自分の人生を犠牲にしたのではないか。

そんな主人公の前に登場したのが流れのフリーカメラマンです。自由に生きているし、知的でやさしいハンサム男。夫に欠けているものを彼は全部持っています。つまり、今の暮らしにはないものを持っている男です。「こんな人生で本当にいいのか」という想いをモロに刺激してくる男です。

彼は主人公の住む田舎町にある珍しい橋を撮影しにやって来ました。

主人公は彼に夢中になります。夫も子供も旅行で留守です。4日間のあいだに100年分ぐらいの恋をして、すべてを彼に捧げてしまいます。ついには真実の愛を見つけたとすら感じはじめます。

そしてそのときが来ます。夫と子供が帰ってくるときが迫り、彼から言われます。「ボクについて来て欲しい」と。

主人公は悩みますが誘いを断り、不倫を終わらせます。

ナゼついていかないのか?

ここにテーマが絡んできます。

彼と過ごした4日間などただの夢物語にすぎないからです。40歳を過ぎた中年女性である主人公にはそれがわかっていました。もし彼についていっても半年もすればトキメキなど消え失せ倦怠期がすぐやってきます。今の夫との関係と変わらなくなります。

たった4日間だけだからこそ生まれ出た幻想にすぎないのです。

恋なんてそんなもの。残酷な話ですがそれが現実です。それが人生です。

40代の女性にはそれが見えてしまった。そういう話です。もし主人公が25歳ぐらいの若い主婦だったら彼に連れられて町を出たでしょう。

40代の主人公は、夫や子供たちが帰って来るともとのパッとしない生活に戻ります。しかし彼との思い出はずっと忘れはしませんでした。現実は残酷だけど、夢のような4日間があるのもまた人生です。

裏ストーリーを加えるとこうした夢のような4日間をとおして今の自分を見つめ直す話にできます。「こんな人生で本当にいいのか」という秘めたる想いが不倫の最中もずっと効いています。主人公はずっとこれを気にしています。この想いが4日間で起こるいろんな出来事に意味を生み出していきます。

単純な不倫の話ながら2枚合わせになっているためちゃんと人生が立ち現れてきます。不倫相手として登場する男は破壊の使者でもあるけど、ロマンの使者でもあります。そんな人生の両面をテーマとしてちゃんと描いていけます。

表向きのストーリーだけを必死に作っても名作は生まれません。本当の勝負どころは裏ストーリーです。

いい感じのオモテストーリーを思いついたら、ちゃんと裏ストーリーを考えましょう。

逆に「こんな人生で本当にいいのか」とウジウジ悩む裏ストーリーの方を先に思いついた場合は、それを活かすオモテのストーリーを見つけましょう。そのままではテーマは機能しません。テーマはオモテのストーリーを必要としています。

オモテと裏の両方が揃うと相乗効果が生まれて、両方ともが途端に覚醒しはじめます。

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