面白いストーリーの作り方

裏とオモテのストーリーを組み合わせていくときのコツ

目次

物語は2枚合わせになっています。

オモテのストーリーは表面的な事件の話。裏ストーリーは主人公の内面の話。

両方いっぺんに思いつくことは少ないです。オモテか裏かどちらかを先に思いついて、足りない方をあとから付け加える感じになります。

どちらが欠けているのかをまず見極めましょう。

名作の可能性

『ゴッドファーザー』はマフィアが抗争を繰り広げる話です。

マフィア同士の抗争劇というオモテストーリーに対して、「マフィアを継ぎたくない」と言っていた三男坊のマイケルこそが本物のドンになっていくという裏ストーリーが用意されています。

もし三男マイケルが最初からマフィア仕事に大賛成の男で、敵対組織とド派手にドンパチやるだけのストーリーだったら、『ゴッドファーザー』という映画は名作とは呼ばれていなかったでしょう。

オモテのストーリーである抗争事件だけではダメなんです。マフィアを継ぎたくないと言っていた三男坊が運命の波に飲み込まれていく話だからこそ、悲しくも恐ろしい名作映画になります。

しかしこれ、逆に言えば、ただの平凡な抗争劇の映画でも、主人公を「マフィアを継ぎたくない男」にするだけで傑作が生まれる可能性があるということ。たったひとつのワンアイデアで手持ちのアイデア全部が一気に機能しはじめる可能性があります。

今ある手持ちのアイデアが実は名作が生まれる出発点かもしれないワケです。あとはしっかり機能させればいいだけ。足りないのは2枚合わせにするためのもう片方のストーリーです。

裏ストーリーは間違いが正される話に

自分がいま持っているアイデアがオモテのストーリーだと判断したのなら、裏のストーリーを加えないといけません。

「3流ボクサーにタイトルマッチのチャンスが巡ってきた」という話はオモテのストーリーです。テーマを担う裏ストーリーを考えましょう。

裏ストーリーというものは内面の話なので、主人公の設定でほぼ決まります。裏ストーリーが作れていないということは、主人公をまだちゃんと作れていないということ。ストーリーの核となるドラマ性がまだ作れていません。

主人公のドラマをしっかりと考えましょう。

このとき一番簡単な方法は主人公に秘めたる想いを持たせること。何か間違った考えを持たせましょう。裏ストーリーはその間違いが正される話になります。

チャンピオンとの対戦に関係のある想いを主人公に持たせましょう。自分には無理だとあきらめているなどの問題のある思考ですね。そしてそのことをずっと気にしている感じにします。

「自分のふがいない人生にじくじたる思いを持っている。でもどうにもならないので人生をあきらめてしまっている」こうした想いを主人公に持たせます。

この想いがタイトルマッチに向けた日々の中で正されていきます。

チャンピオンとの対戦について主人公が何も強い想いを持っていないようでは、ストーリーは面白くなりません。ストーリーというものはオモテと裏のコンビネーションで面白くなります。

オモテのストーリーに対して何か問題のある間違った考えを持たせるようにしましょう。主人公には何か救われていない部分があって、それが秘めたる想いとなってあらわれています。救われていない感じの裏ストーリーにしないといけません。

チャンピオンとの対戦に向けてトレーニングに励むのがオモテ向きのストーリーです。しかしその裏では人生を取り戻すための戦いも行われています。オモテのストーリーに別の意味が加わる感じになります。そしてこちらの裏ストーリーの戦いの方が実はメインとなっていきます。

観客に感情移入させるのもこちらの裏ストーリーの戦いの方です。

チャンピオンに勝てるかどうかなどはもうどうでも良くて、最終ラウンドまでリングに立ち続けることが目標となってきます。

オモテストーリーはチャンス到来に

今度は先ほどとは逆パターンです。

裏ストーリーを先に思いついたときは、主人公がなんだかウジウジ悩んでいるだけの暗い静かな話になっているはずです。

そのままでは全然面白くありません。オモテストーリーを加えて2枚合わせにしましょう。一気に機能しはじめます。

前のページ「2枚合わせにすればストーリーは面白くなる」で例として紹介したドラゴン退治の話を思い出してください。醜い顔のせいで村人たちから避けられ孤独に暮らしている男が、ただ孤独な自分の生活をウジウジ悩んでいるだけでは面白い話にはなりません。ドラゴン退治への参加要請というオモテストーリーが加わるだけで変化に富んだ話になります。

オモテストーリーとの2枚合わせにして事態を動かしましょう。

オモテのストーリーを考えるとき一番大事なポイントはチャンス到来になっているかどうかです。

オモテストーリーの基本形は、主人公に絶好のチャンスが訪れるという形です。

孤独に暮らす醜い男にとっても、ドラゴン退治への参加要請というのは絶好のチャンス到来になります。

『ロッキー』
世界チャンピオンと対戦できるチャンス到来。

『マディソン郡の橋』
夫も子供も留守の4日間にハンサムな男と出会って不倫のチャンス。

『アルジャーノンに花束を』
頭が良くなる手術を受けないかと知能障害の主人公が誘われる。

『鷲は舞い降りた』
敗戦寸前のナチスドイツだけどチャーチル誘拐作戦で一発逆転を狙う。

『シェーン』
悪者の横暴に苦しむ町にシェーンという名の流れ者のガンマンがあらわれ数日滞在する。

オモテのストーリーというのはこのようにチャンス到来が基本形です。

人生をあきらめている主人公にタイトルマッチというチャンスが到来。これをきっかけにして彼の止まっていた時間が動きはじめる。これは『ロッキー』の設定構造ですが、まさに基本どおりの形になっています。

絶好のチャンスが到来するからこそ止まっていた時間が動きはじめます。

「3流ボクサーがタイトルマッチの相手として指名されるなんて現実味がない。3流ボクサー同士が対戦する話にした方がリアルだ。ザコボクサーとの次の試合に向けて練習に励む話ではダメなのか」そう考える人もいます。でもザコとの対戦ではダメです。話はリアルになりますが、テーマがうまく機能しないので結局は人生を描けません。

『ロッキー』もリアルさだけを考えるなら次のザコ戦に向けて練習したり、エイドリアンとの仲を育んでいったりする話にすべきです。

でもそれでは止まっていた時間は動いてくれません。ただの退屈リアル映画で終わってしまいます。

人間の営みをリアルに描けば人生が立ち現れてくれる、などと安易に考えてはいけません。それはノンフィクションのやり方。

物語というのはしょせんは作り話です。だからこそ虚構を用いることによって本物を現出させます。

間違いが正される瞬間というのは日常では訪れません。訪れないからこそ主人公はずっと気づかず間違いつづけてきました。ロッキーもずっと自分の人生をあきらめ続けてきました。

世界チャンピオンとの対戦みたいな非日常な出来事が必要です。これがあってこそ主人公は見落としに気づき、間違いが正され、人生が本当の姿をあらわします。

救われない主人公に何かチャンスが到来するのがストーリーの基本形です。救われない裏ストーリーに対しては、チャンスが到来するオモテストーリーが必要です。

観客はみんな救われなさを抱えながら生きています。だから人生をあきらめているロッキーを見せられると自分のその救われない気持ちが刺激され、ロッキーの間違いが正されることを願います。さらに世界タイトルマッチという甘っちょろいチャンスが到来するので、理想郷の出現まで夢見てしまいます。

この相乗効果が観客をストーリーに引き込み、ガッチリ感情移入させます。

チャンスが到来しただけなので当然ながらこれから戦いがはじまります。勝利の到来ではありません。いきなり勝利を到来させてはいけません。ストーリー序盤で愛の告白をしていきなりカップルになれたら、それはチャンス到来ではなく勝利到来になってしまいます。

好きな人と無事結婚できたとか宝くじで7億円が当たったとかではなく「ゲットできるかも」という未確定のチャンスを主人公にぶつけます。例えばOLが主人公なら「財閥の御曹司と結婚できるかもしれない」みたいなチャンスですね。

「クラスで一番かわいい娘がオレのことを好きかもしれない

「永遠の命を手に入れる方法を見つけたかもしれない

「この子はマラドーナ級の天才児かもしれない

「食べながら痩せられる方法を見つけたかもしれない

まだ可能性でしかないからこそ戦いが起きるし、観客にも「どうなるのだろう?」という興味や期待がわいてきます。

『ロッキー』だって3流ボクサーがチャンピオンと対戦できるというあり得ないチャンスが到来しますが、ボロ負けしたらロッキーの人生はもっとひどいことになる可能性があります。エイドリアンにもフラれてしまうかも。

不倫のチャンスが到来するストーリーにしても、チャンスではあるけど悪い結果になる可能性だってあります。

チャンスは試練でもあるのです。9回裏2死満塁みたいな感じ。1打出れば大きな報酬を得ますが、3振したら悲惨です。想いを叶えるチャンスでもあるけど、想いが破壊されてしまうかもしれない試練でもあります。

『ゴッドファーザー』のように試練という意味合いのほうが強い事件に巻き込まれるストーリーも存在します。マフィア仕事を嫌っている主人公にとって抗争事件の勃発は、組織が崩壊して父親たちが真人間になるチャンスではあります。でも危険が大きいので試練という意味合いのほうが強いです。

この試練パターンは基本形とは逆の形になるため難易度が少し上がります。主人公が怪我を治すだけみたいな退屈な話になりがち。甲子園を目指す主人公が怪我をしたけど病院に通って頑張って治しました。めでたしめでたし、みたいな。試練到来ではなく単純なトラブル収束だけで終わってしまいがち。

試練到来になっておらず裏ストーリーが機能してくれない。そういう失敗がよく起こるので注意が必要です。

関連記事:ストーリー設定

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ストーリー設定の解説はこれで終了です。

ここまでは観客を作品に引き込む方法を解説してきました。次のページからは基本講座も後半に入ります。作った設定をどう展開させていけば面白くなるのかを解説していきます。

まずは一番重要な起承転結の話から。

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