面白いストーリーの作り方

【承後半】主人公は自分の間違いに気づきはじめる

目次

ストーリー全体のちょうど中間あたり、120分の映画ならちょうど60分あたりで大きな事件が発生します。これをミッドポイントといいます。

このミッドポイントを境にストーリーの流れが一変します。

これ以降が承の後半です。

主人公が自分の間違いに気づきはじめるパートです。

間違いに気づいて迷いはじめる

ストーリーはミッドポイントを挟んで流れがガラっと変わります。

自分の間違いに気づきはじめた主人公には迷いが生まれ、テーマが姿をあらわしてきます。

『ロッキー』も周囲との喧嘩を境に自分の気持ちに気づき、タイトルマッチに挑戦することこそが大事だと気づいていきます。強大な敵を前に迷いながらも、とにかく最終ラウンドまでなんとか戦いきろうと考えるようになります。

『ローマの休日』でもお姫様への恋心が芽生えてきた新聞記者は、彼女をスキャンダルの道具にしていいものか迷いはじめます。

『走れメロス』では承前半はたいして何も考えず走っていたメロスが、ミッドポイントを境にして迷いはじめます。友のために本当に戻らないといけないのか自問しながら走り続けます。

ディックフランシスの小説『興奮』では、主人公はトラブルをきっかけに無能なフリをすることに疑問を抱きはじめます。承の前半までは当たり前のようにバカのふりして潜入捜査をできていたのに。

ミッドポイントを経て主人公は承前半までの自分に疑問を抱き、大事なことに気づきはじめます。

少しずつ気づいていく

主人公は自分の間違いに気づきはじめます。

でもこれは少しずつです。一気に正解に到達するのではありません。注意してください。あくまでも少しずつです。

すぐに正解には到達しません。気づき始めるだけ。これはかなり重要なポイントです。

一度に全部気づいてしまったのなら、もう明日にでもラスボスと戦えばいいんです。正解に至ったのならもう勝てます。

でも人間はそう一足飛びに正解にたどり着く生き物ではありません。

例えばアルバイト先の店長に嫌気がさして辞めた経験がある人とかならわかると思います。もう帰宅する時間なのにもう少し手伝ってくれと言われたりしたら嫌になりますよね。でもこのたった1回だけで「もうこんなバイト先やめてやる!」とはなりません。積み重ねが必要です。

給料の支払いが遅れるとか、理不尽な理由で叱責されたとか、女性アルバイトへのセクハラがひどいとか。こうしたことがどんどん積み重なって「もう辞めよう」という気持ちに至ります。

恋愛でも同じです。ちょっと目が合ったぐらいで「惚れた!」とはなりません。助けてくれたとか、趣味が同じだったことがわかって会話が盛り上がったとか、たびたび目が合うようになったとか、その人のことを考えてしまっている自分に気づくとか。

こうして恋は芽生えます。

人間の思考はこのように出来ています。いっぺんに切り替わったりはしません。ストーリー上でもこの流れを再現しないと観客は唐突さを感じてしまいます。

つまり性急な変化は嘘くさく見えるんですね。ストーリーの都合だけでそうなったような不自然さを感じてしまいます。主人公や登場キャラクターたちが作者の作ったただの人形に思えてきて、観客の気持ちは冷めてしまいます。

だから本物の人間と同じように一歩一歩間違いに気づいていくようにしないといけません。そのための承後半パートです。そのために時間が与えられています。

一挙に気づかせてはいけません。まるで恋が芽生えていくかのように少しずつ間違いに気づかせましょう。

あらたな精神が形成されていく

間違いに気づきはじめた主人公の胸には、あらたな精神が形成されはじめます。

『ロッキー』の場合は、自分を枠にはめて人生をあきらめていたことに気づき、最後まで戦おうという気持ちがだんだんと形成されていきます。「負けてもいいから最終ラウンドまで戦おう」それはつまりあきらめていた人生を取り戻そうという気持ちです。

『ローマの休日』の新聞記者はお姫様への恋心をつのらせていき、お金より大事なロマンスが胸に形成されていきます。

『走れメロス』では当初主人公は、人質になっている友のもとへ戻るのは当然のように考えていました。しかしミッドポイントを境に本当に戻らないといけないのかと迷いはじめ、やがては「自分は友情とかそんなもののために走っているのではない。何かもっと大きなもののために走っているんだ」と考えるようになります。

バカのふりをすることに苦痛を感じはじめた『興奮』の主人公も、やがては人間としての、男としての誇りを胸に形成していきます。

ストーリーを作るときは変化が重要です。「変化が大事」という記述はいろんな本に見られます。

しかし最初と最後で変化していればOKみたいに気軽に解説してるだけの本も多いです。

主人公の変化はミッドポイントを境に起こりはじめます。自分の間違いに気づきはじめ、同時にあらたな精神が少しずつ形成されていきます。この過程を承の後半ではしっかり描かないといけません。

変化のメカニズムを具体例で

承の後半で主人公は新たな想いを形成していきます。

ストーリー開始当初に持っていた秘めたる想いは間違っていて、それが正されていく感じになります。

この流れをストーリーの中でしっかりと描きましょう。秘めたる想いに対して厳しい現実が立ちはだかるからこそ、主人公は間違いに気づいて別の精神を獲得していきます。

 

秘めたる想い → ← 現実

 

この両者の衝突を経て、主人公は新たな想いへとたどり着きます。秘めたる想いと現実が戦った結果として獲得した精神です。

名作映画がこのあたりをどのように描いているかを例として載せておきます。

 


 

ローマの休日

秘めたる想い お姫様をネタにスクープを撮る。
現実 お姫様がいい子だった。
この想いにたどり着く スクープよりロマンスを大切にしたい。

 


 

走れメロス

秘めたる想い 友のために戻るのは当然である。
現実 逃げようと思えば逃げられる。
この想いにたどり着く 自分は何かもっと大きなもののために走っている。

 


 

興奮

秘めたる想い 自分はもっと大きな男になれる。
現実 無能な奴のフリをして事件を捜査。
この想いにたどり着く 男としての誇り。

 


 

風スローダウン

秘めたる想い バイクレーサーになりたい。
現実 少年時代が終わろうとしている。
この想いにたどり着く 大人の道へ進む。

 


 

ルーカスの初恋メモリー

秘めたる想い 大人として扱われたい。
現実 しょせんは子供としか見られない。
この想いにたどり着く 大人になりたい。

 


 

氷点

秘めたる想い 娘が殺された悲しみを癒やしたい。
現実 養女は犯人の子だった。
この想いにたどり着く 知らずに強めてしまった愛。

 


 

風が吹くまま

秘めたる想い 珍しい葬儀の風習を撮る。
現実 危篤のはずの老婆がなかなか死なない。仕方がないので村にしばらく滞在。
この想いにたどり着く 死や命を実感する。

 


 

アルジャーノンに花束を

秘めたる想い 頭が良くなれば幸せになれる。
現実 手術によって頭が良くなりすぎて逆に孤独に。
この想いにたどり着く 人間らしい温かい気持ち。

 


 

小さな留学生

秘めたる想い 日本人なんかに負けない。
現実 日本語がわからない。日本の子と交流するしかない。
この想いにたどり着く 交流していく中で親愛の情が芽生える。

 


 

新選組

秘めたる想い 農民だけど武士になりたい。
現実 江戸時代の終焉。
この想いにたどり着く 武士として死んでいく。

 


 

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