ひとつのストーリーは小さなシーンがたくさん集まって出来ています。各シーンをうまく作れないとストーリーも面白くはなりません。
各シーンを作るとき心がけることは目的・対決・葛藤です。
主人公が目的を持って戦うシーンにしないと面白いシーンにはなりません。
そしてポイントとなるのはピンチです。苦戦してピンチに陥るからこそ主人公は葛藤します。
つまらない場面はなぜつまらないのか?
それは目的・対決・葛藤がないからです。この3つはシーンを作るときの大原則です。基本中の基本。必ず意識するようにしてください。
たとえば会話のシーンがあるとします。主人公とヒロインがただ喋っているだけでは面白くなりません。
主人公「オレ昨日パスタ食べた」
ヒロイン「おいしかった?」
主人公「まあまあかな」
ヒロイン「今日は何を食べるの?」
主人公「ハンバーグかな」
全然面白くないですよね。退屈なシーンのお手本のような会話です。
でもこうしたキャラ同士がただ話しているだけのつまらないシーンってつい作ってしまいがち。よくある失敗です。
簡単に作れるし、書いている本人は思い入れのあるキャラ同士に会話をさせるから楽しいものです。だからついダラダラやってしまいます。
でもストーリーを面白くしたいならこういう無意味なシーンは作ってはいけません。観客が退屈して席を立ってしまいます。
シーンの基本は目的・対決・葛藤です。必ずこれをもとにシーンを作っていくようにしましょう。
ただ会話するだけでなく、ヒロインを口説こうとしているなどの目的を入れるだけで面白さが途端に立ちのぼってきます。
そして目的を入れることでそれは主人公にとって戦いになります。無目的に会話しているのではなく、ヒロインをなんとか落とすための攻防戦です。
主人公「おいしいパスタのお店を教えてもらったんだ」
ヒロイン「じゃあ行ってくればいいじゃん」
主人公「カルボナーラが絶品らしよ。行かないと後悔するぐらい」
ヒロイン「あたし和食党だから」
主人公「実は美味しいうどん屋も教えてもらったんだ。ありえないほど美味しいらしい」
攻防戦になっているので観客もこの会話シーンを楽しんでくれます。このあとどうなるのか続きも気になります。先ほどの失敗例では会話の続きを知りたがる人なんていませんよね。
主人公に目的を持たせて戦わせるだけではっきりとした方向性が生まれます。
主人公に目的を与えないとそのシーンに意味が生まれません。
主人公頑張れという応援の気持ちを持たせることができないため、「こうなればいいな」という願望を引き出すことも出来なくなってしまいます。
願望が持てないようなシーンが面白いはずがありません。観客は何をどう楽しめばいいのやら。そのシーンの行方をどう見守ればいいのやら。
主人公に目的を持たせて戦わせ葛藤させましょう。そうすれば観客は「どうなるのだろう」と先を知りたくて仕方がなくなります。
各シーンで主人公を葛藤させることが非常に大事です。主人公は必死に戦うけどうまくいかず悩み苦しみます。
簡単に目的を達成できてしまったら葛藤させることはできません。さきほどのヒロインを口説くシーンにしても、ヒロインがすぐ誘いに乗ってしまっては面白い展開にはなりません。
「あたしパスタ大好き。カルボナーラ食べに行きたい。誘ってくれてありがとう」
簡単にそうなってしまっては盛り上がりに欠けます。だからこそ「あたし和食党だから」など障害を作って主人公をピンチに立たせる必要があります。美味しいお店に誘えば乗ってきてくれると考えていた主人公の思惑は見事に外れてしまいます。
各シーンが面白くなるかどうかは各シーンでどれだけ主人公をピンチに陥れることが出来るかにかかっています。
主人公を戦わせる以上は必ず苦戦させてピンチに陥れましょう。これで葛藤が生まれます。「こうなって欲しい」という観客の願望が打ち砕かれる可能性が出てきているので、観客もハラハラドキドキを楽しめます。
ピンチを生み出しましょう。
たとえば主人公が敵の建物に忍び込んで机の引き出しを調べるとします。敵に見つからないようにしないといけません。ちょっとスリルのあるシーンになりそうですよね。
ここまではみんな作れます。しかしこのあとで差が出ます。机をあさっていたら目的の書類を無事発見。建物から脱出してあっさり任務成功。と、やってしまいます。
書類を見つけるという目的はあります。見つからないようにするという戦いもあります。でも葛藤が出てきません。ピンチに立たされていないからです。主人公の思惑どおりに事が進んでしまっています。
建物に潜入するといういかにも技が掛かりそうな状況です。でもピンチを入れ忘れたせいでそのチャンスを活かせていません。
主人公をピンチに立たせて観客をハラハラドキドキさせるためには、誰かが階段を上がってくる必要があります。
敵のアジトに潜入して机をあさる主人公。
すると誰かが階段を上がってくる足音が。机をあさる手を止め、足音に耳をすませる主人公。
やばい、こっちに来る。部屋を見渡すと小さなクローゼットが。あそこなら隠れることが出来るかもしれない。クローゼットに慌てて飛び込む主人公。
ドアの前で足音が止まる。懐にしのばせた拳銃に手をかけ息をひそめる主人公。
こういうシーンを作ることで面白さが生まれます。ピンチによって主人公の感情がちゃんと揺れ動くようになります。
「誰かが階段を上がってくるようにする」というのはヒッチコックがいっていた言葉です。ピンチのなんたるかを的確にあらわすわかりやすい名言です。
建物に侵入してただ目的の書類を見つけて終わりでは面白くなりません。必ず誰かが階段を上がってくるようにしましょう。
まとまったエピソードを作るときも同じです。たとえば味方組織内に裏切り者がいることが発覚して主人公がそれを調査するとします。このときもちゃんと葛藤が起こるようなピンチを入れるようにします。
すぐ裏切り者が見つかって問題解決となっては面白くありません。調べてみると全員怪しかったとか、逆に誰も怪しい奴がいないとか、あるいはひとり怪しい奴がいるけど彼は組織内で主人公が一番仲良くしている親友だとか。
シーンやエピソードを作っていくときは「誰かが階段を上がってくるように出来ないだろうか」と常に考えながら作っていく癖をつけましょう。
ちなみに、主人公をピンチに陥れたときは必ず変化をつけるようにします。
「誰かが階段を上がってきたけど、ただの気のせいだった」
これでは面白さは崩壊します。
大きな進展でなくてもいいので必ず状況に変化を与えましょう。階段を上がってきた男は主人公がずっと探していた男で「アイツここにいたのか!」みたいな展開になるとか、階段を上がってきた男がスマホで話していて重要な情報を知ることになるとか。
とにかく階段を誰かが上がってきた以上は必ずなんらかの進展を起こさないといけません。そうしないとそれ以降の階段を上がって来るピンチが機能しなくなります。
このページで解説してきたことを感覚的な言葉にいい換えると、「各シーンを競技にしてしまえ」ということ。
主人公がただヒロインとのんびり会話していても面白さは出ません。しかしヒロインをなんとかデートに誘おうとしてるシーンにするだけで急に面白くなります。うまくデートに誘えるかどうかの戦いです。つまり、主人公にとってはそういう競技です。
理想を言えば、ストーリーの最初から最後まですべてのシーンが競技になっていると完璧です。最初から最後までハラハラドキドキがずっと続きます。小さな競技がたくさん連なっていて、クライマックスに一番大きな競技が用意されているのが理想。
小説やシナリオを書き始めた初心者の頃は、つい意味のない会話のシーンばかり作ってしまいます。ヒロインと会話して、次は友達と会話して、家に帰ると今度は親と会話して。
そんなふうに会話シーンを連続させた構成になりがち。
目的・対決・葛藤を使って全部を競技にするよう意識しましょう。
ヒロインをデートに誘う攻防戦があり、その次は友達の誘いを上手く断る戦いがあり、家に帰ると今後は親に怒られるのを上手くごまかす戦いが始まります。
会話シーンのような静的な競技ばかりでなく、アクション性のある競技も必要です。時間までに家に帰らないといけない競技があったり、デートに着ていくための最適な服を選ぶ競技があったり。敵に追われてヒロインと一緒に街中を逃げ回らないといけない競技があったり。
各シーンをどれだけ競技化できるかで作品が面白くなるかどうかが決まります。
説明シーンやつなぎのシーンなんかもあり、すべてのシーンを競技にするのはなかなか難しい部分はあります。でも可能なかぎり競技化するよう心かげましょう。
競技の切り替えもしっかり意識するようにしてください。そのシーンでの主人公の目的は何か。どんな競技が行われるのか。
これが曖昧だとぼんやりとしたシーンを作ってしまいます。
目的地まで物資を無事に運ぶという競技。
↓
目的地に到着したら敵が奇襲を仕掛けてきたので、今度はそれを退ける競技に。
↓
なんとか敵をやっつけた。でもどうやら味方に裏切り者がいることが発覚。次はそれを突き止めるという新たな競技へ。
このように主人公の目的というのはどんどん移り変わっていきます。敵国との戦争に勝つという物語全体の最終目的はありつつも、各シーンではそのための細かな目的があり、主人公はそれを達成するため行動します。競技内容もそのつど変わっていきます。
この切り替えをしっかりと意識しながら各シーンを作り、ストーリーを転がしていきましょう。
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