面白いストーリーの作り方

面白いストーリーの作り方

目次

「面白いとは何か?」その原理は単純です。観客の望んだとおりのことが起こる。それだけです。

しかしそのためには観客に「こうなって欲しいな」という願望を持ってもらわないといけません。

この願望を生み出しもしないで主人公にただ勝利や幸福が訪れるだけのストーリーを作っても、絶対に面白くはなりません。まず必要なのは勝利でも幸福でもありません。悲劇でもありません。観客の願望です。

「こうなって欲しい」と観客に思わせないといけません。感情移入の発生が必須。

これを生み出すのがテーマです。テーマを含んだ戦いの構図です。

面白いストーリーにはちゃんとテーマがあります。つまらないストーリーはテーマのない意味のない戦いになってしまっています。

テーマを含んだ意味のある戦いに

前のページ「面白いとは? 物語の面白さとは結局のところ何か」で3つの失敗例を示しました。

この3つがなぜつまらないのかというと、感情移入が発生していないからです。意味のない戦いになってしまっています。

これにテーマを入れていくと面白いストーリーにすることができます。

「今日の試合は頑張って勝つぞ」というだけのストーリーでは観客は興味を引かれません。意味のある試合にしましょう。

たとえば身近にボクシングをやっている友人がいたとして、単に「今日の試合は頑張るぞ」と言われてもそんなに興味はわきません。でも今日の試合がタイトルマッチで、勝てば世界チャンピオンになれるとなれば話が違ってきます。

勝敗には意味がないといけません。無名の3流ボクサーがただ次の試合に向けて練習に励むだけの話では面白いストーリーにはなりません。世界チャンピオンから対戦相手として指名されてタイトルマッチに挑むようなチャンス到来の話にしないと面白くはなりません。

千載一遇のチャンス到来です。勝てば人生が変わります。

2番目の失敗例「病院に通って怪我を治すだけの話」だって、ただ怪我を治療するだけで全然面白くありません。人生が変わるような意味のある回復じゃないと観客は興味なんて持ってくれません。

たとえば「人生をあきらめている男がそれを克服する話」なんかに替えてみましょう。再生の話にすることで意味が生まれます。

こうしたちょっとした改良でストーリーは劇的に生まれ変わります。たとえば次のような名作に仕上がります。

ふがいない負け組人生を送ってきた30歳の男。うだつのあがらない3流ボクサー。狭くてボロいアパートに住んでいて、ふだんは借金の取り立ての仕事で生活費を稼いでいる。

主人公は自分のそんなみじめな暮らしをなんとかしたいとは思っている。でもどうにもならない。もう30歳だし。

だから自分の人生をあきらめてしまっていた。

そんな男に思いもしなかったチャンスが。世界チャンピオンのちょっとした気まぐれで次の対戦相手に指名されたのだ。

これをきっかけにして主人公は、今まで放置されてきたいろいろな事柄に手を付け始める。張り切って練習を開始するし、気になっていた女性にも積極的にアプローチする。

こうして彼の止まっていた時間が動きはじめる。

これはご存知のように映画『ロッキー』の設定です。

ロッキー 映画

なぜ『ロッキー』という映画が大ヒットして多くの人々の心をとらえたのかというと、テーマを含んだ戦いを用意しているからです。無名のボクサーがただ次の試合へ向けて練習に励むだけのストーリーではありません。

人生をあきらめてしまっている男が自分の人生を取り戻す話になっています。これが『ロッキー』という映画のテーマです。

テーマを作者の主張やメッセージだと勘違いしている人は多いですが、違います。テーマとはそのストーリーに内包された人生のことです。これを描くことで戦いにちゃんとした意味が生まれます。だから感情移入が発生します。

観客は「ロッキーに人生を取り戻してほしい」と願わずにはおれません。これは本能的な感情です。生きることを投げてしまっているような姿を目にすると、人は本能的に危険を感じます。生きないとダメだと感じます。

群れの中のサルがやる気をなくしてエサを取りにいかなかったり、外敵と戦わなかったり、メスとの生殖活動に励まなかったりすると、さすがに危機感をおぼえますよね。

こうした本能からくる願望を刺激しないといけません。

観客に「こうなって欲しい」という願望を持たせる。そしてそのとおりの結末になる。それによって心地よさを感じてもらう。これが面白いストーリーの基礎原理です。

『ロッキー』だって最後まで見れば観客の望むとおりのことがちゃんと起きています。だからこそ多くの人々を感動させることが出来ました。

間違いが正されていく

「人生をあきらめている男にタイトルマッチという大チャンスが到来」このような面白そうな設定を考えたら、次はそれを面白く転がしていかないといけません。

ストーリーを展開させるときの基本は間違いが正される話にすること。『ロッキー』を例に見ていきましょう。

チャンピオンとの対戦というチャンス到来をきっかけにして、ロッキーの止まっていた時間が動きはじめます。

人生を変える大チャンスです。さっそく練習を開始します。

でも練習についていけません。当然です。ロッキーは人生をあきらめていました。きつい練習などしたことありません。

そしてこれこそがストーリー作りの大きなポイントです。主人公は承の前半で間違ったことをします。なぜ間違えるのかというと、大事なことを見落としているからです。

この見落としのせいで主人公は壁にぶち当たり苦しみます。「ロッキーに人生を取り戻してもらいたい」そう願いながら見ている観客はハラハラドキドキさせられます。「もしかしたらロッキーは戦いをあきらめてしまうのではないか。しっかりしろ、負けてしまうぞ!」と。

タイトルマッチに向けて練習を開始したロッキーですが、最初の頃はまだ大事なことには気づいていません。自分に枠をはめてしまっています。負け犬根性が抜けていません。

このことに気づくのはもう少しあとになってから。

ロッキーが間違いに気づきはじめるのは映画のちょうど中間あたり。ここはいわゆるミッドポイントと呼ばれる部分です。面白いストーリーというのは、全体の中間あたりで大きな出来事が起きます。これをきっかけにして主人公は自分の間違いに気づきはじめます。

ロッキーはミッドポイントでトレーナーとケンカになります。ロッキーはそこで自分の気持ちをトレーナーに全部ぶつけます。自分の不甲斐なさを全部吐き出す感じに。

これをきっかけにしてロッキーは自分の間違い、見落としに気づきはじめます。「試合に勝つことよりももっと大事なことがある。立ち向かうことだ。人生をあきらめたままで本当にいいのか」ロッキーは承の後半から少しずつこのことに気づいていきます。

チャンピオンに勝つために試合に臨むのではありません。あきらめていた自分の人生を取り戻すためにリングに上がるのです。

観客もロッキーと同じタイミングでこのことに気づきはじめます。チャンピオンに勝ってオンボロ人生から脱出して欲しいと感じて応援してきたけど、どうやら様相が違うぞと思い始めます。「この映画はどうやらチャンピオンに勝って裕福な暮らしを手に入れる話ではないぞ。これは人生をあきらめていた男の再生の物語だ」と。

試合には勝たなくていい。戦いを挑むことにこそ意味がある。

『ロッキー』ではこの承認役としてエイドリアンを用意しています。ロッキーの恋人役であり、審判者でもあります。ロッキーはエイドリアンに認められるような戦いをしないといけません。エイドリアンに認められたら勝ち。認められなかったら負けです。

サッカー部の主人公と女子マネージャーのデートの模様なんかをただ描いても観客は興味を持ってくれません。テーマを乗せて意味のある交流にしないと感情移入は発生してくれません。

ロッキーとエイドリアンの恋のようにちゃんと意味を乗せましょう。『ロッキー』ではヒロインのエイドリアンがちゃんとテーマと関係しています。エイドリアン役の女優をわざとブスな女優にしたのもこのためです。

監督は当初美人の女優を用意しようとしました。しかしシルベスタースタローンは「ブスな女優をちゃんと用意してくれ」と要請。恋人役が美人だと負け組男の話にはならないし、ストーリー的にも「チャンピオンに勝っていい人生を手に入れる」というようなアメリカンドリームの話になってしまいます。

エイドリアンを美人女優にするだけでテーマがブレてしまい、まったく機能しなくなります。

ストーリーを作るとき一番大事なのはテーマです。そしてこのテーマを描いていくパートが承です。だから承を抜くとどんな名作でも駄作になってしまいます。

観客の見たかったものがちゃんと出てくる

『ロッキー』を見ている観客は「ロッキー頑張れ。あきらめていた人生を取り戻せ」という気持ちになっています。

あとはこれをきっちりとクライマックスで見せればいいだけ。クライマックスの役割とは簡単にいうと観客の望んでいたものを見せること。

『ロッキー』のクライマックスシーンは当然ながらチャンピオンとのタイトルマッチです。

必死に練習してきたロッキーですが、しょせんは3流ボクサーです。それに対して相手は最強の世界チャンピオン。だからロッキーはリング上でボコボコにされてしまいます。

でもあきらめません。顔が腫れ上がって血だらけになってもロッキーは戦い続けます。ロッキーはそうやってなんとか最終ラウンドまでリングに立っていようと頑張ります。

しかし最終ラウンド前の第14ラウンド。ロッキーは決定的なパンチをくらってダウンしてしまいます。チャンピオンはやっと勝てたと思ってガッツポーズ。

しかしロッキーは立ち上がろうとします。

『ロッキー』を観た観客が一番感動するのがこのシーンです。ボロボロになりながらも必死に立ち上がろうとするロッキーの姿。ロッキーの想いが一番強く出るシーンです。あきらめていた人生を取り戻したいという想いがかなり高火力で出てきます。

クライマックスで主人公の想いが強く出てくる。だから映画を観ていた人は感動します。主人公のその想いに観客は胸を打たれます。「ロッキーに人生を取り戻して欲しい」と願いながら見てきて、クライマックスではちゃんと望んでいたとおりになります。

「人生をあきらめたりしないで欲しい」観客はそう感じながら応援してきました。その観客の願いにぴったりマッチした感情が強く出てくるシーンです。これがちゃんと用意されているからこそ観客は胸を強く打たれ感動します。

これが感動のメカニズムです。

クライマックスは火力勝負です。とにかく主人公の想いを強く出しましょう。

強く出さないといけないのは気持ちとか感情ではありません。主人公の想いです。似ているけど同じものだとは考えないように。

「ウオー!」と雄叫びをあげたり「俺は負けないぞ!」などと叫ばせる必要はありません。主人公を号泣させる必要もありません。ロッキーも無言でヨロヨロ立ち上がるだけです。でも想いが強く溢れ出てきます。

当初の目的とは違うものを手に入れる

決定的なパンチをくらったけれどロッキーは立ち上がり、最後まで戦いきりました。

試合終了のゴングが鳴らされると感動的な音楽が流れロッキーはリング上から「エイドリア~ン」と恋人の名を叫びます。

勝敗は判定にまでもつれ込んだけど、勝ったのは結局チャンピオンでした。ロッキーは負けてしまいます。

しかし観客が感情移入しているのは試合の勝ち負けでありません。だから試合には負けてもいいのです。観客が望んだのはロッキーに人生を取り戻してもらうこと。そしてそれは達成されました。その象徴のようにロッキーは「エイドリア~ン」と叫び続けます。

ロッキーはオモテのストーリーでは敗北したけど、裏ストーリーではちゃんと勝ったのです。

ストーリーの結末はこのように当初の目的とは違うものを手に入れて終わります。基本形としておぼえておいてください。

『ロッキー』という映画は、無名の雑魚ボクサーがチャンピオンと対戦する話です。しかしこれはオモテのストーリー。実は裏にもうひとつストーリーが潜んでいます。

あきらめていた人生を取り戻すための戦い。これが裏ストーリーとして用意されています。テーマをめぐる戦いです。これがストーリーに意味を生み、観客の感情移入を引き出します。

『ロッキー』という映画もこのオモテと裏が2枚合わせになって出来あがっています。つまらない作品はオモテストーリーだけしかなかったりします。テーマを描く裏ストーリーがないから当然面白いストーリーにはなりません。

オモテと裏で2枚合わせにするという基本はかなり重要です。

面白いストーリーとつまらないストーリーの違い

面白いストーリーの作り方をかなり駆け足で紹介してきました。『ロッキー』を例に大雑把に解説してきたのでうまく理解できない部分もあるはずです。それらは残りのページで詳細に解説していきます。

現段階ではなんとなくでも全体像を把握できたらとりあえず合格です。

面白さの正体は心地よさです。そしてこの心地よさは「こうなって欲しい」と観客が願い、そのとおりになることで生まれます。

うばすて山に母を捨てに行ったけど捨てられないから面白いと感じます。

ヒロインがお金ではなく愛を選ぶから面白いと感じます。

人生をあきらめていた男がチャンス到来をきっかけに戦い、人生を取り戻すから面白いと感じます。

「こんな奴らが世の中にのさばっていたら大変だ」と感情移入させて、そのうえで観客が望んだとおり悪が成敗されればいいんです。やることは単純にこれだけです。

観客が見たいと思うようなものをちゃんと用意すればいいんです。そうすれば感情移入してくれます。

鍵を握っているのがテーマです。無意味な戦いではなく、テーマをめぐる戦いにしないといけません。

面白いストーリーを作れるかどうかは「テーマをちゃんと構築できるかどうか」にかかっています。ちゃんと裏ストーリーを入れましょう。それによってちゃんと間違いが正されていく話に仕上げましょう。

物語とは結局のことろ間違いが正される話のことです。

主人公が何も間違っておらず、ただ頑張るだけで敵に勝ってしまってはダメ。こういうストーリーのことを主人公がただ頑張るだけの話と呼びます。絵に書いたような駄作になります。

面白いストーリー
「間違いが正される話」

つまらないストーリー
「主人公がただ頑張るだけの話」

戦いの中で主人公が間違いに気づく。これがドラマのみなもとです。これについてもあとのページで詳しく解説します。

テーマを構築できるかどうか、しっかりとした裏ストーリーが作れるかどうか。これが成否を握っています。だから当サイトでもまずテーマから詳しく解説していきます。ストーリーを面白くするための最重要項目なのでかなりページ数も割いて解説しています。

そのあとに主人公の作り方やストーリー設定の解説ページへと進みます。

起承転結などの構成の話や、それぞれのシーンの作り方などは全部後半に置きました。先にこれらの話をしても混乱するだけです。

あせらず順番どおりに読んでいってください。それが一番理解しやすいと思います。面白いストーリーを作るための基本は全部網羅しているのでしっかり学びましょう。

関連記事:面白いとは

面白いストーリーの作り方
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面白さとは何かという根本原理についての解説はこれで終了です。

次のページからストーリー作りの本格的な解説に入ります。まずはテーマの作り方から。関連記事を上から順番に読んでいってください。

関連記事:テーマ

 

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