面白いストーリーの作り方

なぜ主人公に弱点・欠点が必要なのか

目次

主人公には弱点・欠点が必要とよく言われます。

これ自体は間違いではありません。人間は欠点だらけの生き物なので、ちゃんと描写していけば短所が描かれるのも当然です。出てこないと逆に不自然になります。

しかし弱点や欠点を付けたら親近感がわくとか、人間味が出て感情移入してもらえるみたいに短絡的に考えてしまうと、キャラクター作りでは失敗します。

主人公に弱点や欠点が必要なのは、親しみを持ってもらうとかそういう小さな理由のためではありません。ストーリーに引き込めるかどうかが決まるから必要です。

ここを間違えているから観客をちゃんと物語に引き込めません。

主人公に必要なのは弱点や欠点ではなく敗者であること

主人公には秘めたる想いが必要だと前のページで紹介しました。

この秘めたる想いこそがそのまま主人公の弱点・欠点になります。秘めたる想いは他人には言えないことや隠している感情のことです。それだけにネガティブなものであるのが普通です。

秘めたる想いは間違った考えになっているのが普通。

主人公はストーリーの前半では間違った行動をして苦しみます。それは秘めたる想いが間違っているから。戦いの中で主人公は自分の間違いに気づき、秘めたる想いとは別のあらたな考えを獲得します。

主人公が何かを間違えているからこそこうしてドラマが生まれます。

秘めたる想いは間違っています。ロッキーだって人生をあきらめています。オンボロ人生をなんとかしたいけど自分には無理だと思っています。

主人公に秘めたる想いをちゃんと設定すれば、欠点や弱点は自然に備わります。

表面的な欠点や弱点を設定しておけばいいと思っていると失敗します。犬が苦手とか料理が下手みたいな設定を安易に付けても効果はありません。音痴とか泳げないなどの弱点設置も無駄。

重要なのは主人公に秘めたる想いを持たせて、主人公を敗者として描いていくことです。

主人公を敗者として捉える感覚。これがストーリーを作るうえでは非常に大事になってきます。

とは言っても、主人公が負けるストーリーを作れと言っているのではありません。主人公の負けている部分でストーリーを作っていくということ。

人間に勝者も敗者もなくて、ある部分では勝者といえるけどある部分では負けている。みんなそんな感じで暮らしています。仕事はうまくいっているけど女にはモテないとか、今はのんきな学生生活だけどもうすぐ卒業で社会に出ていかないといけないとか。

勝っている部分の話ではなく負けている部分を取りあげて、それをめぐる戦いを物語として作っていきます。

主人公の人生の前に現実が立ちはだかり、主人公は何かしらの救われなさに遭遇しているはずです。その部分をストーリーとして描きます。

主人公に必要なのは表面的な弱点とか欠点ではなく、敗者であること。

「泳げない」みたいな短所を持つ主人公の物語を作るのではありません。「大学卒業のときが迫っている」というような敗者の物語を作ります。

「キャラクターに親近感を持ってもらうために弱点や欠点を設置しておこう」そんなふうに短絡的に考えていては、開花せぬ天才サッカー選手のストーリーなんかはなかなか書けません。

子供の頃は神童と騒がれFCバルセロナの少年チームにも一時所属していた。

でも21歳になった今では2部落ちしそうなJリーグチームの控えに甘んじている開花せぬ天才。

こういうストーリーは弱点・欠点という発想ではなかなか出てきません。この開花せぬ天才の物語でドラマを生む重要なものは主人公の抱える鬱屈です。つまり秘めたる想いですね。この精神性を弱点や欠点という発想では思いつきません。

弱点とか欠点という捉え方ではどうしても「ヘディングが下手」とか「スタミナがない」など表面的なものばかり考えてしまいます。あるいは「犬が苦手」とか「泳げない」とか。主人公の前に現実が立ちはだかってきているという感じが全然しませんよね。

こうした取って付けたような弱点・欠点はドラマ性を高めてくれたりはしません。「いい主人公の条件とは」のページでも解説したように、主人公に必要なものはドラマを生み出すタネです。弱点や欠点をちょっと設定したぐらいではドラマは発生してくれません。

ドラマを生み出すのは秘めたる想いです。

現実が立ちはだかり敗者という立場に立たされるからこそ、主人公は鬱屈した想いを抱え、それをめぐる戦いが起き、ドラマが生み出されていきます。

ヘディングが苦手な選手のストーリーをどれだけ必死に作っても面白くはなりません。しかし開花せぬ天才のストーリーは面白くなる可能性を秘めています。主人公には鬱屈があって、自分が開花せぬ天才であることを非常に気にしているからです。

敗者であるからこそ、そのことをずっと気にしています。

開花せぬ天才は開花しない自分の才能をずっと気にしています。不甲斐ないプレーをしたら落ち込むし、逆に活躍できたときは大喜びします。気にしているだけに想いが非常にハッキリと出ます。

ヘディングが苦手とかスタミナ不足というぐらいの特徴では、本人はそこまで気にしたりしません。犬が苦手とか泳げないという欠点も同じです。主人公がストーリー中ずっとそのことを気にしたりするワケないし、喜びを爆発させる瞬間もありません。

だから表面的な弱点・欠点はストーリーを面白くする効果がありません。キャラクターを魅力的にする効果もありません。

ドラマを生むタネでないと機能しません。

たとえば全ポジションをこなせるユーティリティーの高い選手なんかのストーリーも同じです。FWからDFまでどのポジションも可能。しかしどこをやらせても55点ぐらいという中途半端な便利屋選手。本人はトップ下でプレーしたがっている。これは弱点とか欠点とは違います。問題点という言葉で表した方が近いでしょう。

敗者のストーリーとは、こうした問題を持つ主人公が鬱屈を抱えながら奮闘する話です。

鬱屈、つまり秘めたる想いを持つ主人公にしないといけません。

弱点や欠点ではなく敗者という感覚を意識して主人公を作りましょう。そうしないとドラマ性は生まれません。

「弱点欠点」と「敗者」の違いを理解するためには、たとえばどんなサッカーチームが魅力的かを考えてみるとわかると思います。地元のJリーグチームにヘディングが下手という欠点を抱える選手がいたり、スタミナのなさが弱点の選手がいたり、あるいは犬が苦手なゴールキーパとか、泳げないカナヅチの若手選手とか。

こうした表面的な弱点・欠点だけではファンは引き込まれません。問題要素満載の敗者のチームの方がファンを引きつけます。

FCバルセロナのユースにいたこともある開花せぬ天才もいれば、どのポジションも55点の便利屋のくせにトップ下でプレーしたがってる選手もいたりします。10番を背負うチームのエースは若ハゲで、付き合っている恋人は体重100kgの太った娘。

こんな感じで、各選手がドラマを生むタネを持っていることが重要になってきます。タネがあるからこそ勝ったときに強く光ります。

若ハゲ10番が決めるゴールには、体重100kgの恋人の想いも乗っています。もし若ハゲ10番がいいプレーができなければ、体重が100kgもあるこの恋人のせいになってしまいます。だからシュートを決めたときは彼女に捧げる愛のゴールとなります。

恋人というのはそのキャラの分身みたいなものです。そのキャラの人生を表しているような存在なので、戦いの勝敗も連帯責任のような感じで受け止めることになります。『ロッキー』のエイドリアンが効いているのも同じ原理です。

弱点とか欠点は主人公がずっと気にしているものじゃないと意味が出ません。敗者にはなりません。

主人公を敗者として捉えるというのは感覚的なことなので、少しむずかしく感じると思います。でも面白いストーリーを作るうえでは鍵となる感覚です。必ず意識するようにしてください。

主人公は敗者です。発生した事件に対して問題のある考え方を持っています。人生に裏切られることによって生まれた秘めたる想いを持っていて、ずっとこれを気にしています。

そんな敗者が戦うからこそドラマが生まれます。

主人公は全然人気がなくて敵の悪者ばかり人気が出るという場合は、敵の方を敗者として描いてしまっている可能性があります。

観客は勝者のストーリーには興味を持ちません。敗者のストーリーにこそ強く引かれます。

ゴッドファーザーから問題点を抜くとただの駄作に

弱点とか欠点ではなく、しっかりと根本部分で主人公に問題点を備えさせないといけません。

一番わかりやすい例は『ゴッドファーザー』です。主人公のマイケルは巨大マフィア組織の三男坊です。それなのにマフィアの仕事には関わりたくないと思っています。

ゴッドファーザー 映画

この想いこそが重要です。長男や次男はマフィア稼業のことは別になんとも思っていません。すでに組織の中核となって活躍しています。しかし抗争事件の勃発で事態は大きく動いていきます。

マフィア稼業をなんとも思っていない長男次男をさしおいて、マフィアを継ぎたくないと言っていた三男のマイケルこそが本物のドンになっていきます。

このテーマ構造こそが『ゴッドファーザー』を名作にしています。観客がストーリーに引き込まれるのは主人公である三男坊がマフィアを継ぎたくないからです。

マフィアになりたくないとか人を殺したくないとか、マフィア組織の三男としては大きな弱点です。でもこうした問題点が観客を映画に引き込みます。血に逆らえず運命に飲み込まれていく悲劇に胸をわしづかみにされます。

もし三男マイケルがマフィア稼業に何の感情も抱いていなかったらどうでしょうか?

長男や次男と同じように何の想いもなく、普通に裏稼業を淡々とこなしていけたら全然面白くありません。なんとも思っていないのだから泣き笑いが出ません。心境の変化も出てきません。

なんとも思っていない場合は想いが強く出ないのです。

何の想いもないのだから戦いの構図自体に意味がありません。そうなると当然観客の感情移入も発生しません。何の意味もない退屈な話になってしまいます。

主人公に問題点を与えるのは、ドラマを生み出し想いを強く出すためです。「こうなって欲しい」と観客に強く思ってもらうためです。そのためにわざわざ主人公に問題点を抱えさせて敗者の立場に立たせます。

親しみやすくするためとかキャラクターを好きになってもらうために短所を設定するのではありません。ここは絶対に間違えないようにしてください。

もし三男マイケルがマフィア仕事に抵抗などいっさいなくて、でも犬が苦手だとしたら、はたしてそれだけで『ゴッドファーザー』は名作になるでしょうか?

「マイケルに親しみがわいてきた」

「マフィア仕事には何の抵抗感もないみたいだけど、犬が苦手のようなので感情移入できてストーリーに引き込まれる」

そんなふうになるでしょうか?

犬が苦手みたいな取って付けたような弱点を設定することがいかに意味のないことかわかると思います。

ストーリーに直結しない弱点や欠点は用意しても無駄です。直結してはじめて機能します。

そして直結する弱点・欠点とは、主人公を敗者たらしめている秘めたる想いのことです。

犬が苦手とかではなく、マフィア稼業を継ぎたくないという想いを持たせないといけません。これが観客を引き込むもとになり、続きが知りたくて仕方がないという気持ちにさせます。

小さな留学生が持っていた秘めたる想い

キャラクターの弱点・欠点というのは非常に間違えやすい落とし穴なので、もうひとつわかりやすい例を出して補足解説をしておきます。

例としてあげるのは映画ではなくドキュメンタリーの『小さな留学生』です。これも弱点・欠点の勉強には最適の教材です。

2000年にテレビで放送され、日本だけでなく中国でも大きな反響を呼んだ名作ドキュメンタリーです。しかし最近の若い人は見たことがない人も多いでしょう。簡単なあらすじを載せておきます。

『小さな留学生』

親の仕事の都合で日本に転校してきた中国人の勝気な女の子。

「日本の子なんかに負けない。絶対一番になってやる」と息巻いていたが、日本語が全然わからず最初の授業中に泣いてしまう。

女の子は日本人に勝つためクラスメイトと交流をはかり日本語をおぼえようとする。

こんな感じで幕を開けるドキュメンタリーなのですが、視聴者が引き込まれたのはこの女の子に問題点があったからです。

この子は日本人を敵視していました。中国では反日教育が行われているので仕方がありません。まだ9歳の女の子です。

北京に住んでいた頃は学年でトップを争うほど勉強のできる娘でした。だから日本でも絶対に1番になってやると意気込んでいます。

でも初日にその夢は打ち砕かれます。授業がはじまっても先生の言っていることが全然わかりません。女の子は泣き出してしまいます。

この涙に強い想いが溢れています。日本人に対する対抗意識と、あと日本人に対するコンプレックスも少し混じっています。当時の中国は日本と比べるとまだ貧乏で、GDPも負けていた時代です。

だからこそ勝ちたかった。中国人の優秀さを見せつけてやりたかった。

その夢が打ち砕かれてからこの女の子の本当の冒険がはじまります。日本語をおぼえるためクラスメイトと交流を図ろうとします。

そうやって女の子は少しずつ日本の子たちと仲良くなっていきます。

やがて2年が経ち、すっかり日本の生活になじんだ頃に別れのときがやって来ます。また親の都合で北京に帰ることに。

そのときになって女の子ははじめて自分の気持に気づきます。帰りたくないと。2年のあいだに新たな想いが形成されていたわけです。

映画ではなくドキュメンタリーなので、北京へ帰ることを親から告げられるシーンはありません。中国に帰ることを一番仲のいい友達に伝えるシーンも用意されていません。本来ならこうしたシーンこそがクライマックスになります。新たに形成された想いがかなり高火力で出るはずです。

日本と中国の両方で大反響を呼んだドキュメンタリーですが、もしこの女の子に秘めたる想いがなかったらどうでしょうか?

日本人を敵視などしていなくて、絶対に1番になってやるとも思っていない。最初から日本人と仲良くしようと思ってニコニコしている性格のいい控えめな女の子。そんな子がニコニコしながらただ頑張って日本の学校に溶け込むだけの話。

そんな子の2年間を追っても面白くもなんともないですよね。主人公がただ頑張るだけの話以外の何物でもありません。

この子は犬が苦手ですとか言われても、つまらなさに変わりはありません。料理が下手みたいな設定をつけられても意味がないですよね。北京に帰ることを親に告げられても、犬が苦手とか料理が下手なぐらいでは想いが強く出てきません。

日本人を敵視している女の子を追ったドキュメンタリーだからこそ、「こうなって欲しい」という強い願望を観客に持たせることができます。

女の子を敗者として描かないといけません。日本語がわからず最初の授業で悔し泣きしてもらわないといけません。必要なのは秘めたる想いです。間違った考えです。これがドラマを生んで観客を引き込みます。

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