面白いストーリーの作り方

小説の一人称視点や三人称のタブー!よくやるブレや混在の失敗

目次
小説の視点のタブー

一人称や三人称の失敗で一番多いのは視点の混在です。一人称小説のはずなのに急に神視点が混ざるなど。

視点の使い分けは意外と単純なので慣れてしまえば問題なくできるようになります。しかし初心者のうちはみんな苦労します。例文を載せておくので、一度視点のタブーをしっかり勉強しておきましょう。

一人称視点や三人称視点のタブー

視点の失敗で多いのは次の5つ。

  1. ひとつのシーン内で視点を移動
  2. 知らない部分を書いてしまう
  3. 不自然に説明してしまう
  4. 全部のキャラが一人称
  5. 他のキャラと差がありすぎる

順番に例文と解説を見ていきましょう。

 

1.ひとつのシーン内で視点を移動

三人称のような複数視点で一番多い失敗は、シーン内で別の視点に切り替えてしまうこと。

ひとつのシーン内で別のキャラの視点を同居させたりするのはタブー中のタブー。理由は読者の混乱がとにかく大きいから。

次の失敗例を読んでみてください。たぶん混乱します。

「オレは先にいくぞ」

花子はそう言って出発しようとする太郎が信じられなかった。だんだん太郎が憎たらしく思えてきた。

まったく困ったもんだ。あー腹減った。こんなヤツらには付き合いきれないぜ。

出発しよう。

出発しようとする太郎を花子は恨ましげに見送った。

一人称と三人称をひとつのシーンに混在させた失敗例です。2行目の「まったく困ったもんだ。あー腹減った。こんなヤツらには付き合いきれないぜ」という文章が誰の思っていることなのか一瞬わかりません。花子が急に男みたいな乱暴な言葉づかいに豹変したように勘違いしてしまいます。

ひとつのシーン内で別のキャラへ視点を切り替えるのはとにかく混乱のもと。

視点の移動というのは書いてる本人が思っている以上に読者に負担をかけます。読んでいる方としては頭の切り替えがそんなに早くは行えません。

だからシーン内で複数の視点が混在していると非常に読みにくです。読者の側で努力して理解してあげないといけない小説になってしまいます。

視点の移動は章ごとに行うようにしましょう。

2.知らない部分を書いてしまう

今度は視点のブレで非常に多い失敗を紹介します。一人称でとくによく起こる視点のブレです。

一人称は主人公の見たもの感じたものだけを書いていきます。主人公だけに視点を固定した書き方です。

それなのに急に神視点が入ってきたりするのが典型的な失敗例。

ホクは分かれ道でどっちへ進むか少し迷った。

右に違いない。そんな気がする。ボクは右の道を選んで森の奥へと歩いていった。

その背中を木の陰からこっそり誰にもバレずに盗み見ている者がいた。口元に薄っすら笑みが浮かべながら。

最後の方の文がタブーとされる神視点の混入です。

主人公が気づいていない背後の様子を書いてしまっています。誰がそれを見ているのでしょうか。

このように急に神視点が混在してくると、読者はかなり違和感をおぼえます。ずっと主人公と一体となってストーリーに没入してきました。それなのに急に神視点の乱入です。読者は「主人公しかいないと思っていたのに、実は作者がいた!」と感じて非常に強い違和感をおぼえます。

これをやってしまうと、せっかくの主人公との一体感は急に冷めます。主人公に対して感じていた近い距離感が実はニセモノで、実は全然近くなかったと判明してしまうようなもの。

主人公に見えないものは絶対書かないよう気をつけましょう。

3.不自然に説明してしまう

一人称でよくやってしまう失敗がもうひとつあります。それは書きすぎること。ベラベラといろんなことを説明してしまいます。次の例文などがそのわかりやすい例。

ボクは道に迷いあせっていた。目の前には分かれ道がある。右と左、どっちに行けばいいんだろう。

山道をかなり歩いてきたので靴がドロだらけだ。

この靴はアディダスのスタンスミス。去年買ったものだ。横の3本ラインがカッコいい。靴下も同じスポーツ用品店で買った。上着はビームスのセレオリだけど気に入っているんだ。中に着ているシャツは最近ユナイテッドアローズのセールで買ったやつ。

ボクは右へ進んでいった。

わかりやすいほど場違いな説明です。そのシーンと関係ないことをベラベラ喋っています。身につけているものひとつひとつを呑気に眺めるような状況ではないのに。

主人公が誰かに向かって説明しているような非常に不自然なシーンになっています。

こうした説明しすぎる失敗はとくに起承転結の「起」の部分でよくやってしまいます。物語がはじまったばかりなので読者に説明しないといけないことが山のようにあります。それを主人公がベラベラ説明してしまいます。

一人称のような単独視点は主人公の見たこと感じたことしか書いてはいけません。そうすることによって強力な一体感・臨場感を生み出します。

山道で迷って目の前に分かれ道があるのに洋服について説明などしていてはいけません。今主人公はそんなことを気にかけるような状況ではないのだから。不自然な説明になってしまうので、まるで作者が読者に向かって説明しているように思えてしまいます。

どうしても洋服について説明したいときは、たとえば野宿することになって木の根本に寝転がるなどさせないといけません。地べたに寝転がるので服が汚れてしまいます。そいういう状況なら買ったばかりの上着やシャツを主人公が気にしていても不自然ではありません。

「主人公の見たこと感じたことだけを書く」という基本原則は曲げてはいけません。設定を説明しないといけないときでもこの原則は絶対です。この原則こそが一人称独特のライブ感を生み出すのだから。

作者の説明したいことを説明するのではなく、主人公が気にしているものだけを説明していくようにしましょう。どうしても説明しないといけないことがあるなら、それを主人公が気にかけるようなシチュエーションを作らないといけません。

4.全部のキャラが一人称

一人称と三人称が混ざっている小説は意外とあります。次の例文みたいなやつですね。

どうやらボクは山道で迷ってしまったらしい。困ったな。


花子は太郎を探して道を進み、見晴らしの良いところで一度足を止めた。

「太郎どこにいるの、返事をして」しかし返事は返ってこなかった。

こんな感じでひとつの小説内で一人称と三人称が混在します。これ自体はタブーではないし、そこまで大きな減点もありません。一人称の持つ一体感という長所はもうほぼ出ませんが、一人称独特の書きやすさはそのまま残ります。

一人称と三人称をひとつのシーン内で混在させるのではなく、章ごとにしっかり分けておけば読者はそこまで混乱しません。普通の三人称と事実上はほぼ同じ書き方です。主人公の表記の仕方が違うだけ。「太郎は」と書くところを「ボクは」に置き換えているだけです。

一人称と三人称が混ざった小説を書くときは、主人公だけを「ボクは遅刻した」という感じの一人称に。残りの登場人物は「吉田は遅刻寸前だった」とか「大輔は道に迷い」みたいに三人称表記で。

これは絶対の鉄則です。

主人公だけでなく吉田や大輔まで「ボクは」という一人称にしてはいけません。複数視点で全キャラを一人称で書いてしまうというのはよくやる失敗です。

章が変わって視点が主人公から吉田に切り替わっても表記がまた「ボクは」です。読者は混乱します。吉田に切り替わった実感が持てません。吉田も主人公と同じように「ボクは遅刻寸前だった」と言っています。

さらに次の章になって今度は大輔に視点が移ります。それなのに大輔までまた「ボクは道に迷い」という喋り方。

さらにはその次のスミスまで「ボクは電車に乗り遅れ」という一人称。全員「ボクは」です。ややこしい。読者は現在誰の視点なのか何度もわからなくなります。吉田感・大輔感・スミス感がまったく出ません。「現在スミス視点のはずだけど、本当にこいつはスミスなのか。大輔や吉田と同一人物に思える」みたいな感覚にさせてしまいます。

「吉田は遅刻寸前だった」とか「大輔は道に迷い」とか「スミスは電車に乗り遅れ」という三人称表記なら混乱は起きません。「今はスミスの視点だな」と一発で実感できます。

一人称と三人称を混ぜるなら「ボクは」という一人称表記が許されるのは主人公ただひとりだけです。

5.他のキャラと差がありすぎる

三人称のような複数視点では、キャラごとに差をあまり強めすぎないようにするのも基本セオリーです。差がありすぎると統一感が失われて作り物のような変な印象を与えてしまいます。

たとえば次の例文のようになります。

オレどうやら道に迷ってしまったぞ。マジかよ。ここ山の中だぞ。勘弁してくれー。腹減ったー。


花子は太郎を追い求め、荘厳たらん景観や、一度とて足を止めたらん。

「太郎よ、太郎。そなたはいずこ」答え返り来ず、いとをかし。

まるで別の小説が合わさったみたいになってしまいます。テンションが違いすぎ。

複数視点ではトーンを揃えるようにしましょう。

視点のタブーを犯してはいけない理由

視点はそんなに複雑な問題ではありません。種類も少ないし、小説を書いていればすぐ慣れます。

初心者だって視点のタブーは意外とよく知っています。ひとつのシーン内で視点を変更してはいけないことも教えられる前に知っています。

しかし知っているのに、ふと次のように思います。

「一人称小説を書いているけど主人公のいないシーンがどうしても必要になった。少しの間だけ視点担当者を別の登場人物に切り替えたいな。やっていいのだろうか?」

タブーであることは知っている。でも必要になった。やっていいのか。

非常に多い典型的な悩みです。

答えは当然ながら「絶対やってはいけない」です。理由は、せっかくの一体感が壊れてしまうから。それを壊してまで書かないといけないシーンなんてありません。やるメリットより失うデメリットの方がはるかに大きい。

視点の悩みというのは、タブーを知らないから起きるわけではありません。知っているけどやりたくなるという性質のもの。

つまり、なぜタブーなのかという根拠を知らないわけです。負うリクスを知らない。

だからこのページでも「なぜやってはダメなのか」という理由を説明しながら解説してきたし、例文を出していかにリスクが大きいかもわかってもらうようにしました。

視点というものは種類がそんなに多くもないので、昔からいろんな人がいろんな書き方を試してきました。もう全部やり尽くされています。

主人公を「ボクは」と「太郎は」の2種類で表記するやり方もすでに誰かが試しています。主人公だけを「太郎は」と書き、他の脇役キャラを「ボクは」「わたしは」と表記する方法もはるか昔に誰かが試しました。「アナタは分かれ道で右を選んだ」みたいな2人称視点も大量に書かれています。

「古いやり方にとらわれる必要なんてない。新しいやり方で自由に書こう」などと思って奇抜な視点を取り入れても、実は50年前に試した人がすでにいたりします。その上でダメという結論に達したものをまた持ち出してきただけだったり。

視点は単純なのでもう全部やり尽くされました。

だからすべてにもう明確な答えが出ています。たくさんの試みとたくさんの失敗が大量に積み重なって出てきた結論です。

視点に関するタブーやセオリーは絶対と思っておいた方がいいです。もう先人たちによって答えがはるか昔に出ています。

なぜプロが一人称小説に不用意に別のキャラの視点を入れないのか。それは一体感を壊したくないからです。プロは小説を書いて生活費を稼がないといけません。生活が懸かった戦いです。そんな彼らが絶対やらないよう気をつけていることを初心者がやってはいけません。

戦いの最前線にいるプロ作家が視点のタブーに気を使うのは、作品の質を低下させたくないからです。出版に怒られるからでもないし、文壇の偉い人にコケにされるからでもありません。

「三人称小説であっても視点の移動は極力少ない方がいい」これはプロ全員が肝に銘じている鉄則中の鉄則です。もう絶対的といっていいセオリー。

章ごとに切り替えるなら何度か移動させても問題ないように思えますが、視点の切り替えは説明や引き込みをもう一度やり直さないといけない問題にぶつかります。だから難しい。失敗すると作品がダメになります。

章が変わって視点が主人公から吉田へ切り替わったとします。読者は吉田に視点が移ったことはすぐに理解してくれます。でも作品に入り込めません。吉田の目的がよくわからないし、吉田の性格もよくわかりません。

視点が切り替わるということは、もう一度ストーリーを最初からやり直すようなものです。起承転結の中で一番むずかしいのは「起」です。その「起」からまたやり直す感じ。もう一度設定の説明からやり直さないといけません。読者をもう一度ストーリーに引き込むこともしないといけません。

全部で4人の登場人物に視点を担当させるつもりなら、説明と引き込みを4回やる必要があるということ。

視点の移動が難しいのは、最初から全部やり直しになるから。だからプロは極力視点の変更をしないよう気をつけています。

こうした事情を知らない初心者はあまり深く考えずにどんどん視点を切り替えていきます。説明と引き込みをもう一度やり直さないといけないという事実を知らないから。

吉田がなぜ毎日筋トレをやっているのかも読者はよくわかりません。新婚の吉田は「ボクは奥さんを愛している」とよく言います。でもその実感が読者には湧きません。なぜ彼女を選んだのかも読者はよくわかりません。

そんなよくわからない吉田なる男に突然視点が切り替わり、吉田のストーリーに読者は付き合わされます。

視点を変えたら必要な情報を全部説明して、吉田のストーリーに読者を引き込まないといけません。でも視点をコロコロ切り替える初心者ほど、こうした基本が出来ていません。

さらにもっとひどいケースでは、視点がやたらコロコロ切り替わるのはストーリーが作れていないだけという場合も。書くことがないからやたら登場人物を増やして、とにかく頻繁に視点を切り替えて話を膨らませようとします。

昔からよくある失敗なので注意してください。

視点の扱い方はもうとっくの昔に答えが出ています。タブーは犯さないように。

自分の書きたい小説に合った視点を選ぶ

視点のブレや混在で失敗してしまうのは、単純に力量が不足しているから。これがやはり一番の原因です。

それとは別にもうひとつ気をつけたいのは、作品に合っていない視点を選ばないようにすること。自分がどういう小説を書こうとしているのかを考えて最適な視点を選択しないといけません。

視点の基本がわかっていないと適切な使い分けは出来ません。視点の種類やそれぞれの特徴をまとめたページもあるので、そちらも参考にしてください。

 

関連記事【小説の視点の種類】一人称と三人称の違いは?どっちがオススメ?

 

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